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12 新婚旅行と芸術と初めての夜3
以前ほど逼迫した下半身事情ではなくなった一輝はしっかりと初夜の準備をし、それを旅行鞄の一番下に隠して、新婚旅行の日を迎えた。半年前から申請した10日間の新婚旅行だ。忘れ物がないかをしっかりとチェックして空港へと向かう。
今日、碧は生まれて初めて公共交通機関を利用する。
タクシーを呼ばずわざわざ電車で移動してみる。
「初めての電車だ……一輝さんありがとうございます」
最初のデートでの約束をようやく叶えることができた一輝に、碧はひたすら感謝の言葉を告げる。ただ電車に乗るだけ、それだけなのに、無垢な妻は感動していた。
「今からそんなにはしゃいだら、現地に着くころには疲れてしまうよ」
通勤ラッシュを終えた時間帯の電車でも充分碧には人が多く感じられるだろう。いろんな場所を見てはあれはなんだと訊ねてくる。この子供っぽい仕草と家の中の妖艶小悪魔とのギャップにやられっぱなしだ。
どちらも愛おしく、一輝は碧に悪い虫がつかないようトランクを固定すると、いつものように肩を抱く。
新宿駅で乗り換え、空港までの特急に乗り込む。
窓側の席に碧を座らせるのは風景を見せるためではなく、一輝以外から絶対に話しかけられないよう周囲をけん制するためだ。
一見幼い碧を狙う人はいないだろうが、なにせ一輝は碧にぞっこんだ。無駄に周囲をけん制しまくって自分の物アピールをしてしまう。来るもの拒まず去る者追わず、ついでに飽きたらポイ捨てを実行してきた一輝にとって、自分のものと主張して回るのは初めてだ。
アルファでもベータでも、碧に声をかける隙を一切与えない強烈なオーラを放ってバリアを築いていく。
隣に座っている碧には全く気付かれていないが。こういう時に碧がオメガでよかったと感じる。一輝の凶暴な一面を全く解さないからだ。いつも碧の前でだけいい人でいられる。
長い特急列車の旅の後、ようやくたどり着いた空港でも興奮し、初めて間近に見る飛行機で興奮しこちらが心配になるほどはしゃぐ碧に、もうなにも我慢する必要はないと伝えたい。
だって、今月からもう薬を飲む必要がないからだ。
それは間もなく彼に発情が訪れることになるのと同義で、その日が来たら一輝は躊躇いなく彼のうなじに噛みつくだろう。そうすればもう誰にも碧を取られる心配はない。
完全に自分だけのものになる。
早くその日が来ないかと待ち望みながら、できれば飛行機に乗っている間は発情しないでくれと祈ってしまう。
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