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12 新婚旅行と芸術と初めての夜4

 いや、旅行中も。  でなければ碧の楽しみが失われてしまう。  飛行機に搭乗し、長いフライトをのんびりと過ごし、ようやく辿り着いたのはウィーン国際空港だ。ここからは日本語が全く通じない場所となる。治安も日本ほどよくないことを碧に言い聞かせながらタクシーでホテルへと向かった。  ウィーン国立歌劇場に程近い老舗ホテルへチェックインし、部屋へと案内される。  碧との「初めて」のために奮発した最高級の部屋は、白と赤を基調とした艶やかな内装となっていた。 「うわぁ凄い。お姫様の寝室みたい。ここに泊まるんですか?」 「そうだよ。一生に一度の新婚旅行だからね」  そして一生に一度の処×喪失となるのだから、最高の思い出とするための散財は惜しまない。  一輝の下心など全く読み取れない碧は、芸術的とも言える内装や絵画に目を輝かせながら、室内を見て回っている。  その間に、トランクから服を出すふりをしてしっかりと夜の準備をしておく。  なにせ、ようやく迎えられた初夜なのだ。  こっそり精力剤まで持参しているのは内緒だ。  早く夜になれ、そのために飛行機ではたっぷりと睡眠をとってきたのだから。  だが、その前に最愛の妻の心を満たすことに専念する。 「碧くん、落ち着いたら出かけよう」 「どこにですか?」  バスルームに続く扉からひょっこり顔を出し訊ねてくる。 「碧くんが一番喜ぶ場所だ」 「美術館?」 「そうだよ。行くかい?」 「行きたい!」  子供のように喜んで、でも一輝に抱き着いてくる仕草はもう子供っぽさをなくしている。無意識に軽く煽ってくるのだ。  一輝に飛びついて抱きしめてくるのは一緒なのに、見上げてくる仕草や唇の開き方が妙に艶っぽい。人に触れられて得られる快楽を知ってからの碧はふと見せる表情が一輝を興奮させることに気づいてない。  うちの奥さんは本当に天然小悪魔だと感嘆しながら、彼の肩を抱きながらホテルを出た。  向かう先は、初めてのデートで見た絵画を所蔵している美術館だ。 「ここ……」 「覚えてる?」 「一輝さんからの初めてのプレゼントに載ってた……凄い……」  碧が覚えてくれていたこともだが、喜びのあまり言葉を失うほど感動してくれているのが一輝には嬉しかった。 「時間がもったいないからね、早く入ろう」  促し、美術館の中へと入っていく。建物からして芸術的なのに見渡す限りの美術品に碧はどう動いていいかわからないようだ。それもそのはずだ。神聖ローマ帝国からハプスブルク家まで続く歴代の支配者が集めたヨーロッパ中の絵画が一堂に会しているのだからその数は膨大だ。

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