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14 帰国と危険と家族計画4
ぐったりした一輝は夕食をと誘う父を足蹴にし、碧とともに天羽家を出たのは夕方だった。
無駄な時間を過ごしたと後悔しながら、夕食でも摂りながらバースと将来設計の話をしよう。
「旅行から帰ってきたばかりだから冷蔵庫は空っぽだろう。どこかに食事に行こう」
「僕久しぶりにご飯が食べたいです」
ずっとパンとスープばかりの食事で、確かに一輝も米とみそ汁という気分だ。それならと何度か行く六本木の懐石料理の店へと車を向かわせる。近所のコインパーキングに車を停め、六本木でも奥まった場所にある店へ入り、完全個室の店で創作和食に舌鼓を打つ。
「父がバカなことを言ってごめんね」
「なんですか?」
周囲があまりにも繊細になりすぎるほどバースの話をシャットアウトしたから、碧は本当に意にも介していない。今まではそれでよかった。菅原家が権力と財力をもって彼を守り通したから。だがこれからは違う。一輝の妻として生きていかないといけないのだから少しは現実を見る必要がある。
間もなく彼にも発情期が訪れ、そのうち母になるのだから。
「子供のこと。きちんと碧と二人で話し合わないといけないと思ってね」
「なんか実感がないです。僕が子供を産むっていうのが。まだ実感がないから、僕はよくわからないです」
「そうだね。私はもう少し碧との時間を楽しみたいんだ。しばらくは子供を作らなくてもいいかと思っているんだが、どうかな?」
「でもパパさんは早く孫を見たいと言ってましたよ」
「あれは放っておけばいい。勝手なことを言っているだけだからね」
父が変なことを言い出したせいで、碧が変に意識してしまっている。クソ爺がと心の中で毒づきながら、箸を進めつつ話も進める。
「だが、ある程度予定を立てておかないと家を建てられないだろう」
「そっか……あの話も早くしないとパパさんが困りますよね。僕と一輝さんの部屋と、犬の部屋と、アトリエと一輝さんの書斎と……」
そうだねと相槌を打ちつつ心の中で、犬は決定事項で部屋まで設けるのか! とツッコむ。
いや待て、防犯対策として飼ってもいいかもしれない。一輝が仕事でいないときに一人で家を守る碧が変な輩に襲われないように、番犬は必要だ。だが碧の関心が自分以外に向かうのは嫌だから、さてどうしよう。もう少し落ち着いてからなら許せるか。
犬と自分が碧を取り合う図を思い浮かべてしまい、慌てて掻き消す。
碧相手だと犬にまで嫉妬してしまうのか、自分は。
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