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15 発情と番と幸せと2

 最近どうしても一輝の服に固執してしまう自分の性癖も理解できて安心した。ネスティングというオメガなら当たり前の行為をしているのだけで、それが好きな相手に限定される行為なのだと解ると、自分も一輝が大好きだからしてしまう行動なのかと安心する。  だから今も、一輝の服を敷き詰めたベッドにゴロンと横たわりながら勉強している。  一輝のものに囲まれているだけでとても安心する。 (僕、本当に一輝さんのことが好きなんだ……)  昨日着たシャツに顔を埋めながら、肺一杯に彼の匂いを吸い込む。 「でもそろそろ洗濯しないと……一輝さんが困るよね」  洗濯してしまったら一輝の匂いがなくなってしまう。どうしたらいいんだろう。  もっともっと一輝の匂いに包まれていたい。  でも知られたくない、一輝のパジャマを纏いながらシャツの匂いを嗅いでいるなんて。見られたら恥ずかしくて死にそうだ。 「ちゃんと奥さんやらないと」  もっと一輝の匂いに包まれていたいという欲求を振り払い、ベッドから降りた。  碧の誕生日にプレゼントしてもらったフリルがたくさんついた白いエプロンを着けると、主婦スイッチが入る。  半年かけて家事を教えてくれた先生からお墨付きをもらって独り立ちした碧は、いそいそと家事に励む。名残惜しいが一輝の衣服を洗濯機に入れスイッチを押し、床を磨く。夕食の下準備まで終えて昼食を摂ってからアトリエに引き籠もる。  家事用のエプロンから絵を描くときのためのエプロンへと付け替えた。これも一輝が油絵具が落ちやすい生地で特注してくれたものだ。なぜか絵画用エプロンもフリルがふんだんに使われているが、着るものに頓着しない碧は一輝からのプレゼントというだけで愛用している。  隠していたイーゼルを引っ張り出し、その前に座る。  ずっと色合いにこだわった絵が間もなく完成しようとしていた。  光彩のバランスを何度も何度も考えて、細部にまでこだわり色々な絵を見ながら調整した初めての人物画だ。 (一輝さんの誕生日に間に合いそうで良かった)  内緒で描き続けてきた絵を喜んでくれるだろうか。そればかりが気になる。  今の碧にできるのは家事と絵を描くことだけだから。  丁寧に丁寧に描き上げていく。大好きな人の姿を映したキャンバスは、自分の絵なのに愛おしさを感じる。  集中していると時間はいつもあっという間に過ぎていった。  一歩も家から出ない生活で不健康かもしれないが、碧はただひたすら絵を描いていられる今の生活を気に入っていた。それに一輝から一人での外出を制限されている。必ず誰かと一緒でなければ出かけてはダメだと。必死の形相で約束させられ頷き、その約束を守っている。

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