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 異能種は突然変異で生まれるが、大概そういう個体は子供を残せない。  オレも精気を上限まで吸収しても、ただ体が大きくなっていることを考えると、分裂して新しい個体を生み出すことが出来ないんじゃ……。  マジかよ、なんてこった!  生物としての意義! 子孫繁栄させてくれよ!?  くっ……すまない、大人の玩具職人よ、オレではピンクスライムの在庫を増やすことが出来ないようだ……。媚薬なら水さえあれば無限に作れそうだけど。  おっさんは、しばらくヘビを上に乗せてぷるぷる弾むオレを眺めていたが、考えても仕方ないと思ったのか、ようやく目の前の置かれた水に気づいた。 「これ……私になのか?」  自分用ならとっくに使ってるっつうか、わざわざ葉の器に汲んだりしねぇよ。  おっさんのだよ、と伝えるために彼から距離を取った。ほら、オレは使わないから、アンタが使え。  何度か水とオレを交互に見た後、おっさんは意を決して水を飲む。あ、顔の汚れより喉の方が乾いてた? そりゃあれだけ声を上げてたら、喉も渇くか。  水を飲み干したおっさんは、ぷはーっと息を吐く。いい飲みっぷりだな。 「ふぅ、有り難う……と言うのも変だがな。君が変わった個体だというのは確かなようだ。どうだ、私の家に来るか? ここには君の他に魔物はいないが、動物に襲われる危険があるだろう?」  まさか家に招待されるとは。でもオレ、動物には懐かれてるんだけど。  誘うだけ誘って、結局は売り飛ばすつもりだろうか?  様子を探っていると、おっさんは持って来たスライム壺を持ち上げた。 「これは使わないよ。そもそも、もうこれに入りきる大きさでもないしな。ついて来たいならついて来い。……あぁ、だがイキナリ跳びつくのはよしてくれ」  おっさんも流石にオレが言葉を理解出来るとは思っていないだろう。  スタスタと歩き出すおっさんの背中を見送る。売り飛ばされる心配がないなら、ついていってもいいんだがなぁ。  おっさんは十メートルほど歩くとオレを振り返った。  また少し歩くと振り返る。  ……分かった、分かった! ついて行ってやるよ!  結局、背中に哀愁を漂わせるおっさんに負けて、オレはおっさんの家に行くことにした。

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