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「君はやっぱり頭がいいな。もしかして人間の言葉が分かるのか? ……いくらなんでもありえんか」
オレがおっさんに追いつくと、彼は嬉しそうに破顔した。
ヘビや動物たちが懐いてきたように、オレのテクにおっさんも絆されたんだろうか? オレが異能種なら催淫効果も上がっているはずだしな。
ちなみに人間だけじゃなくて、魔族の言葉も分かるぞ。魔王の右腕を務めるぐらいには、魔法にも精通してたからな。翻訳魔法は便利で助かる。……あれ? そういえば前世で覚えた魔法も普通に使えてるな、オレ。
くそっ、何故硬化魔法を覚えておかなかったんだ……! 遠距離攻撃のが性に合ってて、近接系の魔法を無視したのが来世で仇になるとは!
流石にピンクスライムの魔力じゃ、攻撃魔法は使えないだろうなぁ……と思ったところで、おっさんの家に着いた。
「狭い家だが、君には十分だろう」
おっさんは自給自足の生活をしているのか、無骨な木材だけで建てられた家の前には畑が作られていた。傍には見覚えのあるゴーレムが鎮座しており、その横を通り抜けて玄関に入る。ゴーレムは畑を荒らす動物避けか? 番犬代わりって可能性もあるか。
オレがいた場所からここまで一キロほどなのを考えると、肉は森で調達しているんだろう。
「まぁ適当にくつろいでくれ」
家の中に入るなり、おっさんは顔を洗いに行った。汚れてる自覚はあったらしい。
家は一階建てで、パッと見た感じには三部屋しかない。玄関を入ってすぐにリビングがあり、窓際には流し台が備えられていた。今、そこでおっさんが顔を洗っている真っ最中だ。
部屋を区切る壁はあるがドアはなく、リビングからは寝室も、浴室も見ることが出来る。一応トイレ前には衝立が立てられていた。
おっさんの言葉通り、狭い家だが一人暮らしをする分には困らないだろう。
あと気になった点といえば、人間はよく部屋に写真か肖像画を飾るイメージがあったんだが、おっさんの家には一つも見当たらないことぐらいか。
「さて……何だ、自己紹介でもするか?」
顔を洗ったおっさんは、片手にコップを持ってソファに座った。
腹は満たされているので、オレも話を聞いてやるかとおっさんの前にポテポテと移動する。
「ふっ、私の独り言に付き合ってくれるのか? いや……君が聞いてくれるなら独り言にならずに済むかな?」
顎に蓄えたグレーのヒゲを撫でながら、おっさんは喋り出す。よく見ると整った顔立ちのようだ。髪を切るか、結んでくれたらもっと見栄えするだろう。
「私の名前は……レイだ。今年で四二になる。見ての通り、一人で細々と生活しているよ……」
うーん、見覚えがあるような、ないような……。
レイの顔を眺めていると、彼を知っている気がしないでもない。特徴という特徴がないからそう感じるのか。瞳は澄んだ空のような綺麗な碧眼だったが、これも珍しい色ではないしな。
「……そうだな、普段はあまり飲まないんだが、酒を入れるか」
レイは持ってたコップをテーブルに置いて、新たに小さなグラスに琥珀色の液体を注ぐと、またソファに戻ってオレを見る。そして昔、魔族に犯されたことがあることを告白した。
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