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 レイは一口、酒を呷って唇を湿らす。 「あれは私がまだ十代だった頃……私は思春期の真っ只中で、つまらない反抗心の塊だった。周りから子供扱いされることに、日々やるかたない憤懣を抱えていた。そんなとき別荘に行くことになったんだが、そこでも周りの大人たちは、口を揃えて勝手に出歩くなと私の行動を制限する。当然の如く、若かった私は反発した」  酒の入ったグラスを見つめるレイの目は遠い。きっとここではない、過去の光景を思い出して眺めているのだろう。 「私は見張りの目をかいくぐり、敷地の外へと出た。はじめて規律を破ったこと、一人で冒険に出たことに、私の胸は興奮に高鳴った。ただ敷地の外へ一歩出ただけだというのに、そのときの私は達成感に酔いしれ、現実を見れていなかったんだ。大人たちは、ただ私を守りたかっただけだというのに。……その直後、私は一人の魔族に捕まり、一日中犯され続けた。敷地内には魔族避けの魔法がかけられていたが、私は身勝手な感情でそれを無視したんだ。外に出たら魔族に襲われるなんて、子供だましの迷信だとね」  バカだろう? とレイは自嘲する。  けれど何故か彼に悲壮感はなかった。どこか懐かしげに目を細めている。  これってトラウマを告白されてんだよな? オレが、レイを犯したから。 「……私を捕まえた魔族は、この世のものとは思えないほど美しくて……性質(たち)が悪かった。一方的に快楽を押しつけられ、泣くことしか出来ない私に、その魔族は優しく笑いかけるんだ。私は何も悪くないと。大人に認められたいと藻掻いていた私を、最初に認めてくれたのが自分を犯す魔族とは、皮肉にもならない。魔族は終始私に甘い毒を与え続け……次の日になると、呆気なく解放した。解放されて一番に去来したのは、安堵ではなく、悲嘆だった。おかしな話だが、私はあの美しい魔族に捨てられたことが悲しかったんだ。私なんて捕らえ続ける価値もなかったのかと……」  ふむ、どこかで聞いたことがあるな。被害者が、生存率を上げるために無意識に加害者へ心を寄せてしまう現象だ。レイは、未だにその現象に捕らわれているのか。 「その後は、まぁ……色々と大変だったが、結局その魔族も、選りすぐりの勇者が投入された先の大戦で死んだらしい。もう忘れようと思っていたんだが、君のせいで記憶が蘇ってしまったよ」  それはすまんな。

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