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恨みがましそうにするわけでもなく、レイはオレに笑いかける。ヒゲが伸び放題の状態でも整った顔立ちであることが分かるのだから、若い頃はさぞ美少年だったのだろう。若かりし頃のレイを想像すると、彼を襲った魔族が羨ましい。
勇者が投入された大戦では、たくさんの魔族が死んだ。オレも含めてな。
魔王なき今、人間にとっては栄華を手にする最大の好機だろう。オレは犯すのが好きだったけど、魔王は殺すのが好きだったからな。
魔族は脳筋が多いのもあって、指揮する者がいなければ、すぐに体制は瓦解する。魔王が倒されたことで…………いや、よそう。今のオレには関係ないことだ。
オレ、ピンクスライム!
誰も殺したりしないよ! だから犯させて! ……あれ? 何か前世とほとんど考えてることが一緒だな。
ぷるぷる一人弾んでいるオレをよそに、レイは寝支度をはじめた。
シャワーを浴びて、寝室へと向かう。
腹いっぱいじゃなかったら、オレも一緒にベッドに入るんだけどなぁ。
オレが与えたほどよい疲れと酒の力もあってか、レイはすぐに寝息を立てた。
こうなってしまうと手持ち無沙汰だ。
何か暇をつぶせるものはないかと部屋を見渡していたら、使ったまま放置されている食器が目に入った。することもないので、窓際の流し台に登って食器に体を伸ばす。レイは溜め込んでから一気に洗う性格なのか、皿が何枚か重なっていた。
ゼリー状の体でどこまで出来るか不安だったものの、案外気にせず洗い物は出来た。といっても流水に一部体が流されたけどな! 今頃、排水溝の中では媚薬が出来上がってるかもしれないが、気にしても仕方がない。
今の自分に何が出来て、何が出来ないのか、確認しておくのに越したことはないだろう。
ちょうどレイも家事は得意じゃないみたいだし。
そんな言い訳をしながら、今度はレイの家に来てから気になっていた、部屋の隅の掃除をはじめた。
だってホコリが溜まってるんだもんよ。
体の中にゴミを取り込み、家の外へと吐き出す。こうしてみるとゼリー状の体は便利だ。ソファーの下にも潜り込めるのは大きい。
魔王に引き立てられて貴族になってからは、とんとすることはなくなっていたが、久しぶりにする家事は楽しかった。
つい調子に乗って風呂掃除まで終わらせてしまうぐらいには。
いやぁ、部屋が綺麗になって気持ちもスッキリだ。
ついでにレイの情報を探れないかと思ったが、部屋には家具を除くと驚くほど私物がなかった。家族と暮らしていたような子供の頃の痕跡もなかったので、大人になってからここで一人暮らしをはじめたのかもしれない。
一息ついたところで、寝室に向かった。
寝息を立てているレイを見ながら、オレもベッドの傍で休むことにする。
何かあれば体の上にいるヘビが起こしてくれるだろう。このヘビは何故かオレに対して献身的だからな。
そして意識を手放した後、ヘビに起こされたのは翌朝のことだった。
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