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「すみません…………」  玄関のドアをゆっくり開きながらアッサムが顔を出す。 「あぁ、大丈夫か? とりあえず顔を洗って朝食でも食べなさい」 「何から何まで至らず……あの、そのピンクスライムは?」 「コイツは今腹が満たされているから、心配しなくても何もして来ないよ」  オレは、流し台に移動するアッサムを見ながら、スススッとレイの傍に移動した。  レイの傍にいれば、アッサムに攻撃されることもないだろう。  アッサムは顔を洗うと神妙な顔つきで、レイが座るソファーの向かいに置かれていた椅子に腰を下ろし、朝食に手をつける。  カストラーナ帝国は人間側最大の勢力を誇る君主制の国家で、魔王討伐のための勇者パーティーを編成した国でもある。  実は勇者が派遣される前、長引く魔族と人間との争いに、停戦協定を結ぶべきだという声が、魔族側、人間側の両方から上がっていた。  そこで停戦に向けて尽力し、人間側の交渉役として名前が挙がっていたのが、カストラーナ帝国の王弟であるグレイクニルだ。  だが彼が停戦協定の会談前に姿を消したことで、この話はなくなった。  人間側は、グレイクニルが消息を絶ったのは魔族の陰謀だと疑い、魔族側は人間の陰謀を疑うという泥沼の様相を呈したからだ。オレはてっきり人間側の停戦反対派に消されたのだと思っていたんだがな。 「グレイクニル様」 「もうその名前では呼ぶなと言っているだろう」 「しかし……今の帝国にはグレイクニル様のお力が必要なのです!」 「くどい。そもそも私を辺境に追いやったのは兄上ではないか。今更、勇者に反旗を翻されたからといって戯れ言を」  おっ、何か面白いことになってるのか? 二人の会話に思わず体がぷるんっと弾む。魔王を倒した人間側にとって今が魔族を追い込む好機だというのに、人間側でいざこざが起きているとなれば、魔族側は態勢を整えるチャンスだ。  魔王という指導者を欠いたことで、勢力が分散することは否めないだろうが。  だからかオレのテンションが上がるのとは逆行して、レイの表情は曇っていく。 「何度来ても答えは変わらん。私の交渉相手であったスズイロ卿も魔王と共に倒れた今、最早停戦の道は絶たれたのだ」 「そのスズイロ卿についてなのですが、お耳にお入れしたいことがあります」 「何かあったのか?」  アッサムの言葉を聞いた途端、レイは身を乗り出した。レイにとっては気になる情報らしい。オレも自然と興味を引かれる。 「目撃情報があり、調べたところ……スズイロ卿は生きている可能性があります」 「何っ!?」  えっ!? オレここにいるのに!!?  前世での名前が出たきたと思ったら、オレが生きてるという話に耳を疑った。ピンクスライムの体に耳はないけどな!

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