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「背に腹は代えられません。コイツは金づるとして連れて行きましょう」
最後には全部売り払ってやる。そう言いながらアッサムは自分の馬に跨がった。だから聞こえてるっての。
レイもオレが乗った馬に跨がる。必要以上に体が触れて邪魔にならないように、オレは馬のお尻の方へ移動した。鞍や馬具が乗っているので、ここなら馬の体にも直接触れることはない。
「シド卿の魔族領までは長旅になります。お辛いでしょうが、何卒ご辛抱を」
「私も森での自給自足の生活に慣れている。心配してくれなくても大丈夫だ」
レイの兄であるカストラーナ帝国の王は、全く援助しなかったのだろうか? さも魔族に襲われたようにレイを隠す必要はあっただろうが、生活の支援ぐらいはしてもよさそうなものだ。
弟ですら都合のいい駒にしか考えていないのか。今回も己の都合のいいように交渉させようとしている姿を見ると、勇者が反旗を翻すのも道理だな。
魔王討伐にやって来た勇者パーティも王に忠誠を誓っている様子はなかった。だからこそ、決戦前の茶会で国民による民主制を説いたんだが、まさかそれが功を奏したのか?
魔族は脳筋なのもあって、どうしても指針を示す代表者の存在が不可欠だ。考える頭のある種族もいるが、それは魔族の中で一握りに過ぎない。
けれど人間は違う。現に帝国以外では、議会制を取り入れている国もあるのだから。このように多種多様な制度を持つ国を作れるのも、人間側の強みの一つだろう。
一辺倒な魔族は、魔王を倒されると簡単に瓦解する。今は残した子供たちがその受け皿になってくれていることを願うが。
「野宿でも構いませんか?」
「あぁ、兄上も急いでおられるのだろう?」
夜のお供ならオレに任せろ! 見えていないだろうが、レイの後ろで体を弾ませる。寂しい思いは一夜たりともさせないぜ!
走る馬の振動に体を任せながら、二人の会話に混ざる。
そんなオレにチラッとアッサムが視線を寄越した。
「……レイ様」
「案ずるな、ピンクスライムは精気しか奪わない」
「そこが問題なのですが……」
日が暮れると、アッサムの言葉通りオレたちは野宿をすることになった。
この辺りはまだ人を襲う魔物はいないらしい。だからこそレイを留置する場所として選ばれたんだろう。
アッサムがたき火を作るのを視界の端で見ながら、オレは鞍の外された馬に取りつく。
いや、だってコイツらも発散したいだろ? オレもお腹空いたし。
久しぶりの動物相手だが…………いやぁ、馬の逸物はやっぱデケェな。
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