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ぐすん……肉棒は手に入れられたのに、射精が出来ないなんて……。
世界は無情だ。
「……何で好き勝手したピンクスライムの方が、落ち込んでるように見えるんですかね?」
「昨晩のアレは堪えたな…………」
言ってもピンクスライムのゼリー状の体での性交だから、そんなに負担はないはずだがな。気分的に疲れたのか、レイは旅支度を整えながら腰をトントンと叩いていた。
アッサムは若いのもあって、褐色の肌を輝かせている。
はじめて会ったときより、肌質がよくなってるように思えるのは気のせいだろうか……?
「さて、行くか」
疲れを見せていたものの、レイは出発に意欲的だ。
すぐにでもシドの魔族領に向かおうとするレイの姿に、アッサムが心配げな顔になる。
「本当によろしいのですか?」
「ここまで来てどうした?」
「頼み込んだ自分が言っていいことではありませんが、交渉が成功する可能性はおろか、シド卿が交渉の席に着くかどうかの保証も……」
「君の任務は、私を無事にシド卿の元まで送り届けることだろう? 私にとっても魔族との停戦協定は悲願だ。利害は一致しているのだから、君が気に病むことは何もない」
「しかし我が王は、レイ様をいいように扱っているだけではありませんか! 前の停戦協定を反故にしたのは、誰でもない我が王だというのに」
唇を噛みしめながら、アッサムは拳を握った。
今更何言ってんだと思わなくもないが、彼なりにこの状況を苦々しく思っているのだろう。目的地を目の前にして怖じ気づいたというわけではないが、自分の行いが本当に正しいことなのか信じきれなくなったようだ。その姿が、オレの中で勇者パーティの姿と重なった。
自分ではどうにも出来ない悔しさも相まってか、噛んだ唇からは血が滲んでいる。
レイはアッサムの顔に手を伸ばし、その血を親指で拭った。
「自分を傷つけるのはよしなさい。覚悟は、もう出来ている。誰が何と言おうと、シド卿の魔族領に入るのは私の意志に他ならない。王家の人間として、私が決めたことだ。後悔はないよ」
「レイ様……」
レイにも矜持がある。
出発前に、個人的な思いで動いていることを、オレには語っていた。
建前と本音を使い分けている様は、王家の人間らしい姿だな。
それでも不安はあるだろう。何せ魔王やオレを倒した、勇者パーティーを差し向けた国の人間だ。魔族に身分がバレれば、命を狙われる。しかしレイは気弱になっている姿を一切見せない。
アッサムはそんなレイに対して、これ以上言葉を重ねることはなかった。
前世のオレの生存を確かめたいと言うレイだが、兄王に対する怒りなども感じられないのが不思議だ。
旅の間もずっと、ただ目的にだけ向かって走っているようだった。
果たして本当にレイに思うところはないのか? と問われれば、そんなことはありえないだろう。単に彼の胸の内は、本人にしか分からないというだけだ。
グレイクニルという男は、決して他人には弱みを見せない男なのだろう。
レイとアッサムが部屋を出て行く。
命を狙われる危険はアッサムにだってある。しかしレイの言葉を聞いた後では、彼の歩みにも迷いはなかった。
そんな二人の背中を見て、オレはゼリー状の体をぷるるんっと弾ませた。
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