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 執事を寄越したことを考えると、シドも迎え入れる気はあるみたいだな。  そんな約束をした覚えはないと突っ返すことも出来ただろうに。人間側への人質にするにしても、捕まえてそのまま投獄する手もあったはずだ。  どういう腹積もりなのか……読めそうで読めないところがある長男に、オレは体を捻るしかなかった。  移動には転移陣が用いられたので、あっという間に、そびえ立つシドの屋敷を目の当たりにする。  転移陣は予め設定した場所へ瞬間的に移動出来る便利な魔方陣だ。悪用されては困るので、転移陣がある場所には常に見張りが置かれていた。長距離移動には便利なんだが、敵も使えるのが難点なんだよな。有事の際には消すのが決まりになっているが。  オレにとっては見覚えのある屋敷も、はじめて見るレイとアッサムは驚いたような表情で洋館仕立ての屋敷を見上げていた。  びっくりしただろう。人間の街でもよく見かける建築様式に。  魔王城はそこそこ奇抜な外観だったと思うが、建物の好みは住まう主人によって変わる。  戦線が置かれている領土の領主が住まう場所が、堅牢な城でも要塞でもないところが、オレからすればシドらしいんだが、そこもレイたちにとっては目を見張る点だったようだ。  シドの執事は、二人の様子が落ち着くのを待ってから声をかけた。 「まずはお部屋の方にご案内させて頂きますので、旅の疲れをお癒やしください。夕食後に主人との会談の席を設けさせて頂きますため、出来ればそれまでに身なりも整えて頂けると幸いです」 「ぜひ、そうさせてもらうよ」  赤褐色のレンガが積まれた壁面の玄関を通り、絨毯が敷かれた廊下を歩く。  左右対称になるよう設計されているシドの屋敷は、鳥が両翼を広げるような形で部屋が並んでいた。当主の部屋は二階にあるが、オレたちは一階にある客室に案内される。 「時間になりましたら、またお迎えに上がります」  執事が両開きのドアを閉めたところで、アッサムが大きく息を吐く。 「はー……何というか……てっきり話に聞いていた、魔王城のようなところへ連れて行かれるのだと思ってました」 「そうだな。私もまさか人間の貴族が住まうような洋館に連れて来られるとは思ってもみなかった」  口々に感想を漏らしながら、二人はグルリと室内を見回す。  案内された部屋は広く、調度品も一級品が備えられていた。  アッサムが安全確認も含めて、タンスやらを開けていく。 「魔族も、自分たちと同じような家具を使うんですね」 「ヴァンパイア族は私たちと背格好が変わらないからな。案外使いやすいのかもしれん」  室内のドアを開けた先に、洗面所と風呂場があることを発見したレイはそちらに向かった。執事に言われた通り、身なりを整えるようだ。荷物の中から正装用の服を取り出す。 「……夕食後って言ってましたけど、食事の内容は大丈夫なんですか」 「それに関しては、大丈夫なことを願うしかないな」  いくらシドでも赤ワイン代わりに血を出したりしないから安心して欲しい。  魔族の間では、もてなす相手種族の嗜好を調べて食事を用意するのが普通だ。なので色んな種族が一度に会する場面では、食事係が大層苦労する。  今回にあたっては、ちゃんと人間用の食事が用意されているだろう。  ……ピンクスライム用の食事も期待していいのか、気になるところだな。

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