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オレの期待は見事に打ち砕かれた。
夕食が並べられたテーブルの上に、活きのいい男がいなかったことに落胆する。
見慣れたおいしそうな食事を前にして、アッサムは目を輝かせてたけどな。
ちゃっかりヘビもレイから肉を分けてもらっていた。
おい、シド! お父さんの食事がないってどういうことだ!? 勝手にまた執事でも襲っておけってことなのか!? ……それはそれで、やぶさかではないが。
オレの思考を察知したのか、視界の隅でケンタウロスの執事が一瞬肩を震わせるのが見える。
仕事に忠実な人の背中を見てるとムラムラしてくるのってオレだけかな。
レイとアッサムが満足げに夕食を終わらせた後、少し休憩時間を挟んで、シドとの対面と相成った。
久しぶりに見る息子の顔は、触れたら指先から凍ってしまうんじゃないかと思えるぐらい冷たさを感じるが、ヴァンパイアである彼は終始こんな感じだ。
オレに倣って伸ばされている白一色の長髪も、靡く度に冷気を放っているように見える。切れ長の目や細く通った鼻筋はオレ似だと言われているが、表情がないとここまで冷酷に映るんだな。
シドはオレも含めて客人たちを一瞥すると、静かにレイと机を挟んで対面する席へ腰を下ろした。
次いで凜とした声音が室内に響く。
「ワタシがスズイロの息子、シドだ。そちらはグレイクニルとアッサムで間違いないかな。魔族は苗字を持たぬ故、同等に名前で呼ぶことをお許し頂こう」
シドの言葉に、レイは問題ないと頷く。
しかしシドは長話をする気は毛頭ないようだった。
「単刀直入に言うが、人間との停戦はあり得ぬ。こうしてグレイクニルの生存が確認されたことでも、人間側が停戦協定を反故にしたことは明白だ」
魔族側が動いたならグレイクニルが生きているはずがないからな、とシドは二人を冷ややかに見下す。
「それは……っ」
「黙れ。人間の戯れ言など聞きたくはない」
咄嗟にアッサムが口を開くが、シドに睨まれ、言葉を続けることは出来なかった。
そんな中でもレイは落ち着いた様子を保っている。
シドと対面するにあたり、レイはヒゲを剃り、伸ばし放題だったグレーの髪をオールバックにして後ろでまとめていた。
精悍な顔つきを惜しげもなく晒した容姿は気品を伴い、透き通った空色の瞳は、レイの気高さを感じさせる。
カストラーナ帝国の国章が金縁で施された漆黒のマントを背負っている姿は、誰が見ても彼を王家の人間だと分からせるだろう。
「では何故我々を招いたのだ?」
レイが当然の質問を投げかけると、シドは唇の端を歪ませ薄く笑った。
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