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部屋から廊下に出て、レイたちの姿が見えなくなるとシドはほっと息を吐いた。
「はぁ……まさかグレイクニルが生きているとは。こんなことならグレイクニルとならば会談するなど言わなければよかった……。とりあえず捕らえたのはいいものの、ロロは怒るだろうな……。このピンクスライムで機嫌を治してくれたらいいんだが……」
おい、先ほどまでの威厳はどこにやった。
ロロはシドの幼馴染みで、副官を務めている狼男だ。虫も殺せないシドに代わり、戦線で指揮を執るのが彼の役目なので、きっと今も前線に出ているのだろう。
お前は未だに幼馴染みに頭が上がらないのか。子供の頃から大人しい性格のシドと、気性の荒いところがあるロロの組み合わせでは仕方がないのかもしれないが。
シドは別室に移動すると、テーブルの上にオレを置く。
その部屋には死体のオレもいた。
物言わぬ死体のオレは、部屋の中央付近で佇んでいる。周囲には様々な衣装やアクセサリーが飾られてあった。そこにだけあるのを見るに、衣装部屋から必要な分だけを持って来ているのだろう。
「謁見が終わったから、次は散歩用の衣装に着替えさせるんだ。キミの目から見ても父上は素晴らしく映るかな?」
そしてシドはオレに向かって語りはじめる。
どうやら今からシドの手によって着せ替えが行われるらしい。だからオレの死体で遊ぶなって。
「父上は見た目だけじゃなくて、内面も誠実な方なんだ。だからこそ装飾品は全て一級品を揃えている……例えどんなに綺麗な装飾も、父上の前では霞んでしまうとしても」
心が誠実なヤツは、他人を犯したりしない。
あとピンクスライムにまで父親の自慢をするの止めて。居たたまれないから。
しかしオレの気持ちをよそに、シドの口は止まらなかった。
「母上は死霊使いとしての技量は他の追随を許さなかったが、外見はとても地味で、内向的な性格も手伝い常に劣等感を抱いていた。そんな母に光を当てたのが父上だ。常に社交界の中心にいた父に誘われた母は、今でも夢のようだったと話す」
お前の性格は母親譲りで間違いないようだな。
朗々と語りながらも、シドは手を止めず丁寧に死体のオレが着けているアクセサリーを外していく。
「父上は相手を外見で選ばない。父上に並ぶ容姿を持つ者がいないというのもあるが」
だからちょいちょい見た目自慢を入れるの止めろ。
身内の贔屓目って怖い。それこそ外見の優劣なんて、好みで変わるだろうに。
「ワタシに対してもいつも父上は優しかった。ワタシが虫も殺せないと知っても、父上は失望するわけでも怒るわけでもなく、ならば出来ることを探せと存在を認めてくださった。あのとき、どれほど救われたことか。だからワタシは死霊使いとしてだけではなく、ありとあらゆる魔法を会得することに邁進した」
だけど攻撃魔法は怖くて使えないと言ってロロに殴られるんだよな。
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