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シドの話に懐かしさを覚えながらも、じっとしていられなくてトレイから下り、テーブルからも下りて、死体のオレに近づく。
「ん? やはり惹かれるか。父上は万物を魅了してしまうからな……」
はいはい。
それよりオレはお前のお美しい父親の脇腹に空いた穴が気になるんだが?
シドの魔法をもってしても修復出来なかったのか?
アクセサリーを外され、服を脱がされた体は、脇腹の穴以外は見事に生前通りに修復されていた。横に細長く……といっても五センチほどだが、空いた穴は刀身が突き刺さった跡のように見える。
「あぁ、これか? これは勇者が父上を突き刺した跡だ。どうしてもこの傷だけは勇者の力が込められているのか修復することが叶わなかった……」
どうやらオレの死因らしい。
うーむ……レイのことといい、ピンクスライムに転生したせいか、記憶が抜け落ちてる部分があるんだよな。
何か思い出せないかとゼリー状の体を伸ばす。
「こらっ、ダメだ! 汚すとワタシがロロに怒られる。ロロは父上にご執心なんだ」
んなことは知らん。というかご執心も何も、もう死んでるだろ、オレ。
といってもこんなことでシドが殴られるのも可哀想なので、肌には触れず、傷口に体を挿入した。そこからヌルリと中へ入り込んでいく。
「……キミは実に聞き分けがいいな? だからここまで生き残れたのか……?」
不思議と、まるで吸い込まれるかのように、ピンクスライムの体は死体のオレの中へ収まっていった。
勇者に刺された傷口から動脈、静脈を通り、毛細血管にまでゼリー状の体が行き渡る。考えるまでもなく体が勝手に動いていた。
乾いた布に水が染み込むような、そんな速度でオレが浸透していく。
以前レイの服をトンネルに見立てたときとは段違いの、狭く暗いトンネルを通り続け、駆け巡ったピンクスライムのゼリー状の体は、いつしか心臓に行き着き、脳にまだ到達した。
「何だ……これは……?」
死体の外から聞こえるのはシドの声か。
呆然とした声を聞いている間にも、脳髄の代わりにピンク色のゼリーが満ちる。
瞼を持ち上げると、暗闇しかなかった世界に、光が差した。
目の前には目を見開いたシドが、オレに向かって手を伸ばしている。
「父上…………?」
「いや、オレはピンクスライっ!?」
言葉が終わる前に、シドに抱き締められた。
「その麗しい外見にそぐわない軽い口調は、正しく父上……!」
「最後まで言わせなかったクセに、何言いやがる」
「父上ーっ!!!」
あ、やぶ蛇だった。
そしていつの間にかピンクスライムの上にいたヘビは、オレの肩に巻きついている。
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