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「ピンクスライム……?」  一歩先まで近づいたレイは、何を言っているんだという顔をする。  そういう反応になるのも無理はない。シドがすぐにオレを理解出来たのは、オレの軽口に慣れていたからだ。 「どこから説明したらいいか…………結論から言うと、オレはピンクスライムに転生した。死体を動かせてはいるが、この通り……本体がピンクスライムであることは変わらない」  シャツの裾をたくし上げて、脇腹の傷口を晒した。  意識すればそこからニョッとゼリー状の体を伸ばして見せることが出来る。  レイはまじまじと傷口から伸びるピンクスライムの体を眺めていたが、夢を見ているようなぼんやりとした雰囲気は拭えなかった。  ピンクスライムが人格を持ってるだけでもおかしな話なのに、それが生存確認を望んでいたスズイロ本人ともなれば、到底信じられることではないだろう。 「魔族だったスズイロは死に、魔物に生まれ変わったってことだ。こうして前世の体を動かせているのは、一重にシドが綺麗に保存していてくれたからに他ならない。――ところで、レイ」  名前を呼ぶとレイが顔を上げる。  驚きのあまり、どこか頼りなくなっている表情は、いつかの少年の姿を思い出させた。  笑みが漏れるのを自覚しながら、レイに問いかける。 「お前、死ぬ気だろ?」 「っ……」  目に見えてレイは瞳を泳がせた。  オレはシドが虫も殺せないことを知っている。だからこそシドの元にさえ行ければ、命の危険がないことは分かっていた。  しかしレイは違う。  だというのに彼は、停戦協定についての会談はなされないことが分かっていたにもかかわらず、ここまでやって来たのだ。  アッサムのことは辿り着くまでに帰すつもりだったのかもしれないが、何にせよレイは、ここで死ぬつもりだ。  感情の揺らぎが見て取れなかったのは、最期の覚悟をしていたからかもしれない。  自分を落ち着かせるためか、レイは胸に手を置くと目を閉じ、深呼吸をした。  ゆっくりとまた目は開かれるが視線は伏せられてしまっている。 「貴方に殺されるなら、思い残すことはない」 「どうしてそう死にたがる?」  カストラーナ帝国の王は、生活の援助こそしなかったものの、魔物のいない危険の少ない森へレイを送った。  世俗とは断絶された環境だったが、平穏な隠居生活を送るには最適だっただろう。  元々望みのない交渉を断ったところで、兄王が彼を害するとも思えない。  あのまま静かに暮らせたはずなのに、レイは死地へ赴くことを選んだ。  どうしてだ? と尋ねるオレに、レイははじめて声を荒げた。

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