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第3話 帰り道
「よぉっ。タイガ!」
今日の仕事を終え会社を出ようとした時、背後から聞き慣れた声がした。
職場の先輩のフジキだ。タイガが入社した頃から彼にはなにかと世話になっている。
「お疲れ様です。フジキさんも帰りですか?」
「お前、まぁまぁ元気そうだな。」
フジキはタイガの様子をうかがいながら話を続けた。
「カエデとたまたま話すことがあってさ。お前のこと、心配していたから。」
カエデのことはフジキも周知している。よく三人で飲みに行ったりもした。フジキの人の良さなのだろう、カエデもフジキに仕事の相談をたまにすることがあると言っていた。今回もそれでタイガとカエデの破局を知ったということだろう。
「まぁ、なんとか…。前を向いていくしかありませんから。」
しかし言葉とは裏腹に実際は気持ちはまだざわつき沈んだままだ。
『desvío』でいくらか良くなったと思った気分は気のせいだったのかと思うくらい、タイガのメンタルは日に日に悪くなっている。
ただタイガはあれからも頻繁に『desvío』には通っている。初回限定だと思っていた店オススメの酒は、その後もタイガが席につくと振る舞われていた。
透き通る湖のような薄いスカイブルーの酒。
真夏の日差しのような鮮やかなオレンジの酒。
自らが発色してるかのようなキラキラとした黄金色の酒。
どれも見た目とのギャップを感じさせるような味わいで、タイガは次はどんな酒が出てくるのかという楽しみと期待もあり、週末はほぼ『desvío』に寄り道をしていたのだ。
そしてその時だけは確かに気分は晴れていた。
店のやり方が上手い、まんまと罠にはまってしまったとタイガは思いながら、『desvío』に行くことが自分の生活の一部と化しつつあった。
ぼぼ常連になりつつあるタイガには、楽しみにしている振る舞い酒はいつか終わってしまうのかもしれないが…。
「いい店があるんです。フジキさん、これから予定がないのなら一緒にどうですか?」
「いいな!ないない、予定なんてなぁんもないから。じゃ、その店つれていけ。」
フジキはタイガの誘いに快く応えてくれた。
タイガはフジキと2人連れ立って『desvío』に向かった。
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