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第4話 週末
「フジキさん、ここです。」
今日も週末なので『desvío』はそれなりに混んでいた。
タイガがいつも座る入り口近くのカウンターは空いている。ちょうど二人かけられる。この店はいつも奥のほうが混んでいるらしい。間接照明で薄暗い店内ではタイガのいるところから奥まではよく見えないが。タイガはフジキと二人、いつもの場所に腰をかけた。
今日は最初に接客してくれた店員、確かウィローと名乗ったか。彼もカウンターの真ん中辺りで忙しく接客しており、こちらには来なかった。
「いらっしゃいませ。なににしますか?」
タイガのところにオーダーをとりにきた店員も愛想はよかったが、今日は振る舞い酒はなかった。
二人で一通り注文した料理を平らげた後、フジキが言った。
「いい店じゃないか。第一に酒が旨い!珍しい種類のものも多く、楽しめる。料理も申し分ないしな。」
タイガは自分一推しの店が先輩のフジキに気に入ってもらえたのはよかったが、振る舞い酒がとうとう終わってしまったことがショックだった。
「気に入ってもらえてよかったです。いつもはここまで混んでないんですけどね。」
「タイガはいつも週末にきているのか?」
「ええ。まぁだいたいは。週中にくることもありますが。」
「退社後に週二通いか!まるで恋人だな。俺も足繁く通うかなぁ。」
楽しみにしていた振る舞い酒は終わってしまったが、フジキのおかげて今日も楽しい時をすごせた。
タイガはまた機会があればだれかを連れてこようかと考えていた。それほどまでにこの店に特別な思いを抱くようになっていた。
その日はフジキが奢ってくれた。会計を済ませ、タイガは『desvío』を後にした。
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