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第5話 月曜日

 今日は月曜日だ。いつもは慌ただしく過ぎる業務も月中だからか、意外とスムーズに進んでいた。 タイガは今日も『desvío』に行ってみようかと考えていた。今まで月曜日には店に足を運んだことはない。頻繁に『desvío』に通うようになってはいたものの、店の定休日をうっかり確認し忘れていた。 休業日の可能性もあるが、タイガは行くだけ行ってみようと前向きな気持ちで退社後、『desvío』へとむかった。  店には明るい照明が灯っていた。 タイガの杞憂だったようで、店は営業していた。 「いらっしゃいませ。こんばんは、タイガさん。」 いつもタイガの接客をしてくれるウィローが声をかけてきた。 「やぁ。」  月曜日だからか、店内は閑散としていた。こんな日もあるのかとタイガは意外に思いながらいつものカウンター席についた。 振る舞い酒が終わってしまった以上、一杯目から酒を自分で選ばなければいけないと思い、メニュー表に目を落とす。酒の種類が多いのはいいが、こういうときには困ってしまう。メニューにのっていない酒もあるのだとか以前ウィローが言っていたことを思い出す。半分うなりながら頭に手をあてメニュー表と睨めっこをする。 コト…  音に反応し顔をあげると、目の前にグラスが置かれていた。 朝露をふくんで水水しく芽吹く目の冴えるような翠色の酒がグラスの中で揺らめいている。 「どうぞ。」 タイガはよく通るその声の主に顔を向けた。タイガは自分の心臓が止まるかと思った。  目の前には今まで見たことのない男が立っていた。 サラサラの黒髪、一点の曇りのない白い肌、翠の瞳…。それは彼の黒髪とのコントラストでなお一層鮮やかさを増している。タイガの前に置かれた酒と同じ美しい翠…。間接照明の元でも彼の色ははっきりとわかる。それほどまでに彼の存在は異彩を放っていた。 とても、とても美しい男だ。 「お兄さん、月曜日来るの初めてでしょ。」 「え?」 「今日はね、特別なんだ。毎週月曜日は定休日なんだけど。すごくいい酒が入ったから、店長がどうしてもお客に飲ませたいって。それで急遽、営業になって。でも普段休んでんだから。お客さん、来ないよね。お兄さん、運がいいよ。」 あっけらかんとテンポよく話す彼にタイガは圧倒されてしまう。タイガはごくりと唾をのみ、俯き出された酒を見つめる。 「飲んでみて。これが今日入ったオススメの酒だ。コクがあってほんと旨いから。」 タイガは男に勧められるままに酒に口をつけた。 「うっ、う、旨い!!」 「ね。」 「今までで一番旨い!」 旨い酒と目の前にいる彼の存在の衝撃で、タイガはアドレナリンが体中に駆け巡っているのを感じた。 気分が高揚し、幸福感に満たされていた。頭が冴えてきて、タイガは今になってハッと気づいた。 「振る舞い酒が…復活したのか?」 タイガはポツリと呟いた。 「振る舞い酒?」 「席に着いたら毎回注文もしていないのに酒が出てきたんだ。もちろん勘定には含まれていない。この間来たときはなかったから、回数制限のものかと思ったんだけど…。」 タイガは男に説明する。 「…。あぁ、あれね…。あれは...、サービス。」

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