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第10話 アイビーの店

 『desvío』から歩いて15分ぐらいのところに目的の店はあった。レシートには店の名前しか書かれていなかったので、タイガは店の場所を携帯で調べなければならなかった。カツラからの初めての反応だった。タイガは是が非でも目的の店を見つけ出すつもりでいた。運良く同じ名前の店はなかったらしく、携帯マップを見ながらようやく『アイビー』にたどり着くことができた。  その店は気をつけて探さないと通り過ぎてしまうような建物だ。アイビーの葉が生い茂り、建物を包み隠している。店の名はこれからきているらしい。  タイガは木製ドアの上部分にあるステンドグラスから中の様子をうかがった。どうやら喫茶店のようだ。 店内は薄暗いオレンジ色の照明で、こんな時間だが意外にも客が入っていた。知っている者だけの憩いの場なのだ。アンティークの置物が壁際の棚に所せましと飾られているが、店主のセンスがいいのか、品の良い雰囲気を醸し出していた。  タイガはそっとドアを開け、店に入った。改めて店の中を確認する。客達は一人の者もいれば、数名で訪れている者もいる。それぞれが自分の時間を楽しんでいる。しかし、不思議と騒々しくない店だ。  タイガは奥にある二人かけのテーブル席に腰をおろした。店員はいないのかと辺りを見回すと、一人、身なりの良い初老の男がこちらに近づいてきた。 「君、初顔だね。よく店だとわかったね。」 「知人の紹介で…。注文はどうしたら?」 「ここはわたしの店なんだ。この時間は飲み物しか出せないけど。コーヒーでいいかな?」 「はい、じゃぁ、ブラックで。」 「ちょっと待ってて。」  店主と名乗った男はカウンターに入って行った。タイガが来るまでは客のようにテーブル席でくつろいでいたのでわからなかった。話し方も自然で気さくな感じだ。趣味で経営している店なのだろう。 数分後とても良い香りのコーヒーが運ばれてきた。出されたコーヒーは悪くない味だった。  コーヒーを飲みながら、タイガは改めてレシートを見た。カツラからのメッセージがある。いったいどういうことなのだろうか。店の客とは個人的に会わないとカツラから話を聞いたばかりだ。時刻はそろそろ0時になる。  カツラは来るのか、来ないのか。からかわれているわけじゃないはずだ。初恋をした少年のようにタイガはいつまでも自問自答していた。しかし、どうしても期待せずにはいられなかった。自分は特別なのではないかと…。 あまり人の出入りの激しい店ではない。カツラがいつ来るのかとドアを睨みつづけるのに疲れたタイガは、いつの間にかまどろんでいた。 「タイガ?」  自分を呼ぶ声がし、肩をゆすられたタイガは寝ぼけ眼をこすりながら声の主に顔をむけた。 「カツラ…!」 「よかった。来てくれてたんだ。時間も遅いし住所を書くのを忘れてしまったから、いないかと。」 カツラはほっとした面持ちでタイガの向かいの席についた。彼の姿を目にし、その美しさにタイガは目が覚めるような思いだった。『desvío』以外でカツラに会うのは初めてだ。彼から目が離せない。鼓動が次第に早くなる。 「マスター、俺もホット。ブラックで。」 カツラは例の店主に声をかけた。彼はこの店をよく利用しているようだ。注文を受けた店主は軽く手を上げ注文に応えた。 「カツラ…。あの、レシート。どうして?」 タイガはたまらずカツラの目を真っ直ぐ見、単刀直入に聞いた。

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