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第11話 告白

 カツラはしばしタイガを見つめた。吸い込まれそうな形の良い翠の瞳にタイガが映っている。タイガは緊張した面持ちでカツラの答えを待つが、カツラはなかなか答えない。彼の赤い唇がなにかを言おうと一瞬開きかけた。数秒の沈黙の後、言葉を選んでいるのか、カツラがゆっくりと話し出す。 「どうしてって...。タイガにこの店を教えたかったから。」  二人の間に再び沈黙が流れる。カツラの答えはタイガが期待していたものとは異なるものだった。どう反応していいのかわからず、カツラの言葉にタイガは黙ってしまった。そんなタイガの様子に気付き、カツラが言葉を続ける。 「鈍いな、タイガ。それもまぁあるけど。それが全てじゃない。」 いったいカツラはなにをタイガに伝えようとしているのか。タイガはカツラの気持ちを汲み取ることができない。カツラにさらなる説明を求めようとタイガは努力する。 「俺と…。話したかったとか?」 タイガは自分が期待し予想したカツラの気持ちをかなり分厚いオブラートに包んで伝えた。予想が外れた時が怖かったからだ。 「まぁ… な。店じゃゆっくり話せないし。」 カツラはタイガから目をそらしながら答えた。細く長い指でサラ髪を耳にかける。本当に美しい男だ。タイガはますますカツラにのめり込んでいく自分を自覚する。 「嬉しいよ。本当に。俺もカツラともっと話したかったから。」 タイガはなんとか気まずい雰囲気を払拭しようと明るく言った。  カツラのコーヒーが運ばれてきた。コーヒーの香りが心地よい。タイガはカツラを改めて見つめた。 「この店、よく利用しているのか?」 「ん…。まぁな。一人になりたい時とか。」  カツラはコーヒーに口をつけながら答えた。店で話すカツラとは雰囲気が違う。タイガとはあまり目が合わない。つまらない男だと思われてはいないか。タイガはなんとか話題が弾むよう高速で頭を働かせた。 しかし、自分の口から出た言葉はまさに意表をつくものだった。 「最初に聞いた振る舞い酒のことなんだけど。いくら死にそうな顔しているからって、初めて来た客にそこまでするのかなって。他意は特にないと思ってるんだけど。」 「...。」  タイガはカツラからずっと振舞われた酒のことがひっかかっていた。カツラの判断で振舞った酒なのだから、彼の奢りだ。そうした本当の理由が知りたかった。しかし、カツラはしばらく黙ったまま。 タイガは聞くべきではなかったと思い、訂正の言葉をかけようとした。 「他意はあった。」 カツラがコーヒーをテーブルに置き、なにか決心したようにタイガをまっすぐ見て小さな声で答えた。タイガは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じる。しばらく見つめ合っていると、カツラがふいに微笑み先を続けた。 「まだまだ浅いな、タイガ。どうでもいいやつに、誰が金払って酒飲ませるんだ?」 カツラは開き直ったようにあっけらかんと話す。 「タイガ、初めて店に来たとき浮いていたからな。ガッチリ高そうなスーツきめてさ。目新しい客が来たと思って観察してたんだ。」 カツラはテーブルに片肘を突き話し続ける。カツラに恋をしたタイガにとって、彼がすること全てに目を奪われる。 「タイガ。お前、今すごくいい色の()をしている。あの時はすごいつらそうな瞳だった。せっかく綺麗な瞳をしているのにもったいない。俺は今のお前の瞳を見たかった。だから、そのためになにかしたかったんだ。それが酒さ。」 「カツラは、俺の瞳が好きなのか?」 「そうだな。いい瞳の色をしている。」 タイガは自分の瞳の色があまり好きではなかった。できればもっと落ちついた深い海のようなブルーがよかったと思っていた。しかしカツラのこの告白で、今の瞳の色でよかったと初めて思えた。カツラが好きなのはタイガの瞳の色だけなのか、タイガの自身なのか。正直、今のカツラの言ったことから彼の真意は判断できない。タイガは彼への溢れる気持ちをもう抑えたくなかった。 「俺も。カツラの瞳が好きだ。」 カツラが瞳を見開く。 「そして、カツラ自身も。」

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