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第12話 カエデ
タイガが物心ついた頃には既に母はいなかった。タイガが産まれてしばらくして病で亡くなったのだ。
父は出張が多く、タイガはもっぱら父の弟である叔父と一緒に時間をすごした。叔父はタイガにとって父であり、歳の離れた兄のような存在だった。
タイガは小学校から由緒ある男子寄宿学校に通うことになっていた。寮生活のため叔父と離れるのは不安だった。しかし父も叔父も過ごした学校ということで、自分も大丈夫とあまり深く考えないようにした。
「タイガ。学校は楽しいぞ!仲間がいっぱいできる。お前は要領がいいから大丈夫だ。」
少し不安げなタイガのことを気遣い、叔父は彼を励ました。信頼する叔父が言うのだから間違いない。
「うん。友達いっぱい作るよ。」
春から入寮することが決まっていた幼いタイガは、叔父の魔法の言葉にすっかりのせらていた。
実際学校生活は楽しかった。まだまだ幼い者たち同士、寮に帰ってから喧嘩をすることもあるが、基本は肩を寄せ合い、お互い助け合いながら生活していた。
ある日、タイガは不思議な話を耳にした。となりの寮になんと、女の子がいるというのだ。
ある程度寮生活にも慣れ、みんな気持ちに余裕が出てきたのだろう。普段接することがなくなった同世代の異性に興味深々だった。男子だけだと思っていたクラスメイト達はその子の話で持ちきりだ。結果、みんなで連れ立ってこっそりその子を見に行こうということになった。
基本的に寮のメンバーも学校のクラスと同じ割り振りだ。その日はタイガも含め数人が休み時間にそそくさと、例の女の子がいるクラスに向かった。廊下から教室の中を覗きこむ。目的の女の子はすぐにわかった。
キラキラ輝く金髪に、コロコロと変わる表情。彼女の周りだけ、華が咲いたようだ。他の男子生徒よりも華奢な体。彼女を優しく守るようにクラスメイト達が取り囲み、楽しく話していた。
「ほんとにいた!?」
一人のクラスメイトが小さく驚きの声をあげた。タイガも彼同様驚いていた。
廊下のドアごしに肩を寄せ合いみんなで彼女に見とれていると、後ろから声をかけられた。
「また、来てるよ!カエデ見にきたんだろ?」
どうやらこのクラスの生徒らしい。みんなが彼の言葉にぽかんとしていると、ニヤニヤと笑いながら、彼は教えてくれた。
「カエデ!あれ、ああ見えて男だから。」
タイガを含め、その場にいた全員に衝撃が走った。
タイガは思った。多分カエデのほうが本当の女の子よりかわいいんじゃないかと。
ほぼ寮暮らしのタイガは最近同世代の女の子とは会っていない。確かなことは言えないが、当時タイガが思い描く理想の女の子の姿がカエデだった。
最初は女の子がいたと騒いでいたタイガの仲間達は、カエデが自分たちと同じ男子だと知って興味がいくらか薄れたらしい。タイガも同じような感覚だったが、ただカエデとは仲良くなりたいと思った。なぜなら、カエデと話しているクラスメイトたちがほんとうに楽しそうに見えたからだ。
カエデとクラスが違うタイガがその後カエデと交わることはなかったが、タイガは少しずつカエデの存在を意識するようになっていった。
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