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第22話 頼みごと

 耳をすましていると、玄関から話し声が聞こえる。この声は...。 「こんにちは。」 またもやツバキだった。タイガはうんざりしたが、無視するわけにもいかないので適当に挨拶をした。 「どうも。」 「ツバキからもタイガに言ってもらったほうがいいと思って。」 「〇〇のことも。俺たち、もちろん部屋は別だ。」 「そうよ。私、カツラみたいな男は好きにならないわ。自分より綺麗な男って気持ち悪いし。」 「あ、そう。気持ち悪くて結構。」  タイガは二人の顔を交互に見た。嘘は言っていないように感じた。ツバキのことは知らないが、カツラのことはよくわかっているつもりだ。もし嘘なら、平気な顔でこんなことを言う人間ではないはずだ。 「わかった、信じるよ。」 「よかった。」 カツラはほっとした表情を見せた。話の区切りがついたところでツバキがタイガに視線を向けた。 「誤解が解けたところで、折いってお願いがあるの。カツラには話したんだけど、あなたの了解がないと無理って言われたから。」 「え?なに?」 カツラが横ではぁと大きなため息をついた。タイガも身構える。ツバキの頼みなどいいものであるはずがない。 「〇月〇日に友人の婚約パーティーがあるの。そこにカツラを一緒に連れて行ってもいいかしら?」 「パーティーの主催者はカツラの友人でもあるのか?」 「違うわ。でもカツラは私の数少ない男の友人でしょ。エスコートしてほしいの。見栄えはいいしね。」 「他の友人じゃダメなのか?」 「カツラが一番頼みやすいの。それに先日の酒の商談での借りを返してもらわなきゃ。」 正直タイガは嫌だった。即答しないタイガに痺れを切らしツバキがまくし立てる。 「友人として行くだけだから別に問題ないでしょ?そんなに心配ならあなたもくる?」 ツバキは全く引く気はないようだ。見栄えがいいか。先に婚約する友達に対する女の見栄なのだろう。女は面倒だなとタイガは思ってしまった。タイガがだめだとはっきり言えば、カツラはツバキの誘いを断るだろう。しかし、カツラは交友関係も広そうで、今後もこういうことがあるかもしれない。いちいち目くじらをたてていたら、カツラに愛想をつかされかねない。タイガはこれ以上は押し問答になると思い渋々了承した。 「いいよ。行って。二人を疑っているわけじゃないし。」 「ありがとう。全くやましいことなんてないから安心して。」 自分の目的を果たし、ツバキは帰って行った。 「悪い、タイガ。出張で貸しを作ってしまった。強く言えなくて。」 「いや、いいんだ。誤解も解けたし。ところで、酒の仕入れは思い通りにいったのか?」 「まぁね、ツバキには助けられた。腹へったな。外に食べに行くか?」  タイガとしてはとりあえず不安はなくなったので、その後二人きりでカツラの自宅ですごしたかった。いいかげん彼と触れ合いたかったのだ。だからカツラが外に出ようと提案したのは意外だった。  外食は楽しかった。出張先でのやり取りをカツラは話してくれた。時計を見るとまだ夕方だったが、カツラがタイガの体を気遣って早めの解散となった。なんといっても一昨日、一日でここから〇〇まで往復したのだ。まだ疲れが残っているだろうと。名残惜しさ胸にタイガはカツラと別れた。今日はキスはなかった。

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