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第3話

 勇気を奮い起こせば大浴場で背中の流しっこをする、という方法があるにもかかわらず、紳士的配慮に基づいて(正しくは恐れ多くて)いちども拝んだことのない裸身が想像力をかき立てる。  雪也はほっそりしていて、だが脱ぐと典型的な細マッチョかもしれなくて、それはそれでギャップ萌えもありうる。ペニスは……といえば、すべらかでシルクの手ざわりだ、きっと。 「……っ」  裏筋を軽くひっかくと、下腹(したばら)が甘やかにざわめいた。リコーダーの穴を押さえる要領で指を蠢かすにつれて、弾丸が装填されていく。  撫であげて撫で下ろし、そして夢想する。試行錯誤を重ねるなかで培った技巧を凝らしてかわいがってあげたら、雪也はどんな表情(かお)をして啼くのだろう。  せっかく寝起きを共にしているのに、 「俺に聞かれるの前提で、せんずりこくとか? サービス精神旺盛な趣味があるとか?」  ぽろりとしゃべってしまうのを恐れて、不本意ながら口数が減る。ゆくゆくはカップル誕生にこぎ着けたい気持ちと裏腹、鬱蒼とした森をさまよっているように、ゴールは遠のくばかりだ。  さて一応、すっきりしてから部屋に戻ったものの、まんじりともできない。悩みの種の雪也ときたら、ぐっすりで恨めしいったら。  ──おまえ、むっつりスケベな。ルームメイトのよしみで一緒にオナろうぜ。  例えばこんなふうに笑い話に持っていくのが得策だった、と枕カバーを雑巾のようにねじる。  あるいは二段ベッドの上と下、どちらの段を使うかジャンケンで決めたときにパーを出せば、すなわち雪也に勝って上段を獲得していたら、その後の展開は変わっていたのか。構造上、覗かれやすい下段では、ひとりエッチになだれ込むのは難しいはずだから。  名案がひらめいた。口頭で注意しづらいことはLINEで……悲しいかな、IDを交換するには親密度に欠ける。  窮余の策で、ノイズキャンセリングの、機能搭載のワイヤレスイヤホンを装着したうえで布団にもぐり込んだこともある。だが逆効果だ。かえって神経が研ぎ澄まされて、誰かがペットボトルのキャップをひねったとおぼしい微かな物音さえ耳が拾いたがる。  くちゅりと、とろみを増した蜜が放つ秘めやかな水音については推して知るべし。  真夜中の〝ショータイム〟は体内時計を狂わせ、二段ベッドの上段に妖しい空気が流れだすと同時に、ぱちっと目が覚める。こんな体たらくではエログロ系のユーチュバーの、どぎつい配信に群がる下種な連中を嗤えない。

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