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第4話

 葉桜がさやさやと歌う、すがすがしい朝でも海斗の心は曇り空だ。おはよう、と挨拶を交わす瞬間は抜き打ち検査を受けているように緊張する。  髪の毛に櫛目が通った雪也は清潔感にあふれて、オナニー道において研鑽(けんさん)を積むどころか、下ネタを振りしだい冷眼を向けてきそうだ。つい、まじまじと見つめてしまうのに対して、 「(くま)がすごいね。体調管理に努めるのも共同生活を送るうえでのエチケットだよ」  模範解答であしらわれるとカチンとくる。寝不足の原因はおまえの迷惑行為だと、ぶちまけたい衝動に駆られても、 「迷惑行為ってなんのこと」  きょとんと問い返された日には藪蛇になるのがオチ。なので、へらへら笑ってその場をやりすごす。  に聞き耳を立てているのがバレるのと、秘密のお愉しみが筒抜けだったことを悟るのと、より恥ずかしさでのたうち回る羽目に陥るのは、どっち?  午前の授業は爆睡しっぱなしの間に終わり、昼休み、海斗は友だちに用があるふりをして隣の教室を訪ねた。ドア口にたたずんで教室内を見回す。たまたま視界に入った……あくまで偶然目に留まった雪也は、隅っこの席でぽつねんと本を読んでいた。  なんだか新鮮な眺めと、ゆるみがちな口を引き結んだ。ふいと(きびす)を返した。ぼっちの、陰キャの分際で俺の心を好き放題にかき乱してくれてムカつくったら。  俗に可愛さ余って憎さが百倍という。経験値が低い者を相手に、アンビバレンスな心理状態は恋わずらいの一症状、自覚しろ、と迫るほうが酷だ。  連休が明けたあとも、三日坊主の真逆をいって、深夜の秘め事は繰り返される。〝(にん)〟の一文字で日々を送るうちに海斗は、雪也のは就寝前の歯磨きみたいなもの、とカテゴライズするに至った──ヤケクソ気味にこじつけた。  一方で、こんな発見があった。単純にペニスをしごいているにしては、(みだ)りがわしく湿った音がくぐもる。ゼリーに指を突っ込んで、殊更いやらしくかき混ぜているところを連想させる(実験してみた)くちゅくちゅというそれは、粘膜がさざめく音……?  焚火に薪を()べ足したも同然だ。雪也は後ろもいじる欲張りなのかも、という材料が妄想に加わるなり豊かな肉づけがほどこされていく。  前立腺を直接刺激するアナニーとやらは病みつきになる気持ちよさ……らしい。上級者はメスイキを体得する……らしい。  二段ベッドの上段を舞台に、クジラの潮吹きさながら淫液が奔出する場面が繰り広げられる……?

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