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第5話

 よりによってサッカー部の練習試合に出場中、思考回路が桃色に染まると、どうなるか。対戦相手のシュートを阻止するはずが、オウンゴールをやらかして針の(むしろ)。  中間試験を翌週に控えていても、疑問符が頭の中でひしめき合うありさまでは英単語なんか憶えられっこない。雪也がも開発ずみか否かは、現時点では不確定要素が多い。  だったら実地調査に乗り出すべきと、ひとたび(よこしま)な欲求にとり憑かれたが最後、イケイケドンドンでいくしかないっしょ。  部屋替えからこっち奇癖に翻弄されまくっている慰謝料だ、と海斗は自分を正当化した。玉門に指を出し入れしながらよがるさまを、ぜひとも見てみたい。  母貝にまぎれ込んだ異物が真珠の成育に影響をおよぼすのと原理は同じだ。当初はプラトニックの性格が濃かった恋情も、きっかけひとつでエグい成分を含む。  ところで病棟の大部屋と同様、段ごとに張り巡らせる仕組みのカーテンが、テリトリーの境界線を表す。  独房に放り込まれたみたいで鬱陶しい、と海斗は常にカーテンを開けっぱなし。  かたや雪也は消灯後、必ずカーテンを引く主義だ。ただし、その内側でライトを点けるとシルエットが映し出されるくらいペラペラの代物(しろもの)で、覗き見を防ぐには(はなは)だ頼りないが。  オナリストぶりに衝撃を受ける以前も以降も、恋する男子が、想い人のプライベートタイムの過ごし方を知りたいと望むのは当然のこと。  推しが一致していたときは超ラッキー。会話が弾んで、単なるルームメイトから友だちへ、友だちからカレシへと出世街道を歩んだりなんかして。  願望はさておいて、ふざけ半分だろうが勝手にカーテンを開けるのは(まか)りならぬ、と自分を戒めていた。  ところが好奇心の塊と化した現在(いま)は、神秘のヴェールに包まれている上段の、その全貌を明らかにしたい気持ちに支配される。  疑問とは解消するためにある。そう悪魔がそそのかす。コツは、こう。  妖しい水音がしだした瞬間を狙い澄まして、そっとカーテンの裾をずらす。推測どおり雪也が(なか)をくじりたてている姿を拝みたければ、危険を冒す価値はある。  はしたなくも可愛らしく淫技に耽るさまは網膜に焼きつき、アオハルの一ページを華々しく飾ること請け合いだ。  だが、大きな代償を伴う。デバガメ野郎の烙印を押されて、告らないうちから撃沈される確率は五十パーセント……いや、もっと高いかも。

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