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第7話
船が難破して漂流しているところに救助隊がやってきたように、ひっしと、しがみついてこられたのだ。勢いあまって海斗を下敷きにする形に、もつれ合って倒れ込む。
言い寄られて、おたおたしている間に押し倒された図を思わせた。海斗はもちろん! うろたえまくった。力任せに雪也を押しのけた……つもりだが、ますますむしゃぶりつかれてカチンコチンに固まった。
一日のうちの、およそ三分の一は同じ空間で過ごしていても結界が張られているように、心の距離はまったく縮まらないままハナミズキが咲いて散った。
抱きつかれるという棚ぼたにありつくのは、これが最初で最後かもしれない。そう思うと助平根性が出る。
せっかくのチャンスをふいにするのは惜しい、と伸しかかられるに任せた。そのくせ嘲笑を浴びせてしまうあたり、恋の病 にむしばまれた男心は複雑だ。
「なんのつもりだ。プロレスごっこになんか、つき合わねぇぞ」
「……ごめん。すごく、いやな夢を見たせいで震えが止まらなくて」
「ダセぇの。夢にビビるとか、ガキんちょ」
ディスり、そのじつ感動の嵐が吹き荒れていた。日ごろは近寄りがたいオーラを放つ雪也が、いたいけな仔猫のような一面を見せる。可愛い、ドサクサまぎれに抱きしめるくらい役得の部類に入るよな? では、ちょっとだけ腕を背中に回して……マットレスに縫い留められたっきりだった。
八割がたカーテンで外界から遮断された上段は、秘密基地めく。狭苦しいぶん〝雪也の香り〟が立ちのぼり、海斗は眩暈に襲われた。
ただでさえ馬乗りに組み敷かれたままの体勢は刺激が強い。Tシャツがめくれてむき出しの鳩尾 を尻たぶがかすめるわけで、某所が不穏にもぞつくのは自然の摂理だ。
ごくり、と喉が鳴った。さしずめ敗者の末路は火あぶりの刑というガマン大会において、ギブアップする一歩手前の心境だ。
リビドーの悪戯によって勃ってしまった日には、いつになく親密な雰囲気はかき消えるどころか、氷の刃 のごとき眼差しで恋心をずたずたに切り裂かれるのは必至。
「きみは、おれを露骨に避けている節 がある。てっきり嫌われていると思っていたから、様子を見にきてくれて驚いた」
だ~か~ら、勃つか勃たないかの瀬戸際で踏ん張っているときに、甘やかにかすれた声で囁きかけるのは反則だっつうの。あと嫌っているは誤解で、むしろメロメロ……本音がだだ洩れになるのを危ういところで免れた。
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