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第9話

   本人は必死でも、傍目には滑稽な眺めだ。現に、くすくす笑いが降りそそぐ。  それは微かに毒を含んで鼓膜を震わせた。床に降り立ち、光の速さで下段に転がり込む。上掛けを引っかぶるや否や、アルマジロさながら丸まった。  思い出し恥ずかしさに襲われて「ぎゃっ!」と叫ぶ寸前、たらりと汗が流れ落ちた。悪夢にうなされて云々自体、もしかすると餌だった?   アナニーに溺れるもようを偵察にいったつもりが、巧妙におびき寄せられた? 雪也の、シークレットゾーンに興味津々の海斗をかねてから疎ましく思っていて、懲らしめる意味でひと芝居打った……? 「(はか)られた、とか……ないわあ」  あえて噴き出した。ともあれ最後はグダグダではあったものの、かなりの収穫をあげた。見た目以上にしなやかな肢体を抱き留めたときは、手づかみで若鮎を捕らえたように胸が高鳴った。  絶妙のおさまり具合で腕の中にすっぽり。その感触が甦るにつれて、全身が火照りだす。ぬめりを帯びた呼気で布団の中が蒸れて、移り香がくゆりたつと、駄目だ。  自分史上最高というレベルでぎんぎんにペニスがみなぎり、早急に対処しなければ海綿体に血が集まりすぎて、ぶっ倒れる。  海斗は、そろそろと上掛けから這い出した。すみやかにトイレへ走ろう。だが、しかし早くも鈴口がべたつくヤンチャぶりでは、道なかばで暴発する可能性がなきにしも(あら)ず。  耳を澄ますと、雨音に混じって規則正しい寝息が聞こえる。雪也はすでに寝入ったとみえて、好都合だ。キス泥棒に失敗したのも相まって制御不能に陥り、まだか、まだか、とペニスがしきりに急かす。  透視能力を発揮するかのごとき集中ぶりで、あらためて底板を()めあげた。寝返りを打つ気配すら感じられないということは、秒ですませるぶんにはセーフということ。  ベンチで腐っていたのが、試合に出場する機会が巡ってきた気分だ。ボクサーブリーフと一緒くたにハーフパンツをずり下ろすのももどかしく、摑み出す。正しくはロケット弾のように飛び出したのを握った。  そこで舌打ちした。パーソナルスペースと下段を仕切るカーテンを引き忘れている。だが普段はパンツ一丁の姿でテーピングするときでさえ開けっ放しの俺が今夜に限って閉めると、カーテンがレールをすべる、しゃー、っという音で雪也を起こしてしまうかもしれない。  ゆえにこのまま続行、ただし一にも二にも素早く。

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