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第12話

 海斗は殊更むっつりと胡坐をかいた。一生分の恥をかく形で失恋するなんて残酷な宿命(さだめ)だ、と心の中でほろほろと涙をこぼす。  浅ましい姿をさらした時点で出家するべきだった。さもなきゃ念動力で地球を木っ端微塵にするとか……。  机が二脚、壁際に並んでいる。雪也は彼が使っているほうから椅子を持ってきて、二段ベッドと向かい合わせに置いた。腰かけ、診断結果を患者に告げるように淡々と列挙する。 「きれいに皮が剝けていてサイズは平均を上回る。勃起角度は直角に近く、持続力に関しては未知数。総合して、ご子息は星いくつに輝くかな?」  鹿爪らしげに採点してくれてミシュランの覆面調査員か、と皮肉ってあげたい。蛇に睨まれた蛙を地でいって、海斗は首を横に振るのが精一杯だった。  雪也の、おカタい優等生という仮面が剝がれ落ちた下から現れたのは露出狂気味のオナニスト。わいせつ罪が適用される点ではどっちもどっちなのに、連夜に亘って自分のことは棚にあげて、暗にいたぶってくださる。蘭に擬態したカマキリが襲いかかってきたような豹変ぶりに、たじたじとなってしまう。  いっそのこと「不潔っ!」とストレートに罵ってくれたほうが、まだマシに思える。 「そうだ、チェック項目に追加して精液の飛距離も測ってみよう」 「ノーサンキュー!」  下段の枠とマットレスの間に埋もれていたボクサーブリーフを、ようやく発掘した。そそくさと穿きかけて目をしばたたいた。無駄に根性があるというか、ムスコときたらヤンチャなままだ。  恐る恐る顔をあげたところに、にっこりと笑いかけられた。 「上手にイケたら、ご褒美をあげるけど?」  ご褒美、と鸚鵡返(おうむがえ)しに呟くと雪也はこう出る。自分の唇に人差し指をあてがい、その指で海斗の唇をくすぐった。  告ってOKをもらって、つき合いはじめて。しかるべし段階を経てキス、時機を窺ってエッチへと進む。  片恋という自己完結型の繭にこもる者の常で、海斗もまたシミュレーションに余念がない。形はどうあれ、その一部が叶えられる交換条件を提示されると、ブロックを抜き取られたジェンカさながら気持ちがぐらつく。 「ご褒美が欲しいよね?」  いまいちど、且つ思わせぶりに唇をつつかれると暗示にかかる。

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