13 / 15

第13話

 犬の尻尾のごとく、ひと揺れしたペニスをうっかり握ったのが運のツキ。ただでさえ寸止めを食らった状態がつづいているせいで、(くだ)が焼けただれるようなのだ。  あぶくが鈴口に群がって、提灯のごとく膨らむそばからねっとりと糸を引くあたり、いつもより濃厚なのが迸る……。 「……ぅ、くっ」 「そんなに亀頭をくりくりと揉んで、摩擦熱で火傷するんじゃない?」 「うる、せえ。黙ってろ」  ガン見されながらマスをかくのは、広義に解釈すれば街中で立ちションするのと一緒。海斗は自分にそう言い聞かせながら、しごくスピードを徐々に速めていった。  どうだ、下手なエロ動画なんかより迫力満点だろう。ならとばかりに、ふぐりを撫で転がす。ストリッパーじゃあるまいし、いったい何の因果で、想い人の眼前で痴態を演じる羽目に陥るのだ? 「ん……」  エクスタシーの高波にさらわれるのに備えてペニスを握りなおす。珍獣の、その生態を観察するような真剣な眼差しに炙られて、蕩けそうだ。未知の扉が開いて、視姦されながら放つパターンは中毒性が高くて、ハマると抜け出せない気がする……。 「あのさ、素朴な質問。オカズの材料は、おれを犯すところだったりする?」  バレバレ、という含みを持たせてカマをかけてよこす。 「う……っ!」  ぎくりとしたはずみにストッパーが弾け飛んだ。熱液が噴きあがり、いびつな水玉模様をシーツに描く。残滓を搾り出す(てい)で最後のひとしごきといくかたわら、海斗はちょっぴり涙ぐんだ。  アナニー愛好者の雪也の観点に立てば、五分と保たない俺など粗悪なアダルトグッズにも劣る早漏野郎だ。いや、問題は別にある。ハレンチなザマをさらけ出したからには、恋が実る望みは完全に(つい)えた。  さらば、初恋。そう呟いて、うなだれた。そこに雪也が、木柵越しに身を乗り出した。 「お疲れ。はい、約束のご褒美」  蠱惑的にほころんだ顔が、視界いっぱいに広がった。わたわたしている間に、朱唇が荒い息づかいにわななく唇をついばみ、すぐに離れた。  落ち葉が肩をかすめた程度の淡々しい感触だけを残して。  ぽかんとしてから、ややあって海斗は浜辺に打ちあげられたクラゲのように、ふにゃふにゃと崩れ落ちた。男の純情を自ら(けが)した罪は万死に値し、だが報われて余りある。  いきさつは別として、稀少価値の高いブルーダイヤモンドより、なおいっそう貴重なファーストキスを賜った……。 「おやすみ。だらだらと夜更かしして寝坊しないようにね」  颯爽と上段へと消えゆく後ろ姿を見送るにしたがって、胸が切なく疼いた。恋わずらいが悪化する予兆めいて、稲光が空を焦がす。  神さま、学生寮のこの部屋が愛の巣と呼ばれる未来は果たしてあるのでしょうか……?

ともだちにシェアしよう!