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SideーB 上段の狡知

      SideーB 上段の狡知  小鳥がさえずり、カーテンが金色を帯びる。雪也は布団の中で大きく伸びをした。明けがた降りやんだ雨が埃を洗い流したおかげで空気は清らか、気分は上々だ。  軽やかに梯子を下りた。造りつけの棚が定位置のスポーツバッグは、この時間はサッカー部の部室へと移動する。  持ち主の海斗は、朝練のメニューをこなしているころだ。彼にとってはが、ふとした拍子にコマ送りで甦るたび、せり出した股間をごまかすのに四苦八苦しているかもしれない。  下段はシーツが剝ぎ取られ、おまけに消臭スプレーが転がっている。証拠隠滅を図った形跡に笑みを誘われた。浅はかな面も含めて海斗は可愛い。  優等生というポジションは、周りを欺くのに何かと便利だ。なので、雪也は食堂へいく前に制服に着替えた。糊のきいたシャツは第一ボタンまできっちりと()め、ネクタイを締めると、学園生活用の仮面の装着完了。  つと、グラウンドの方角を眺めやると鮮明に像を結ぶ情景がある。あれは、花吹雪が校内を薄紅色に染めあげた始業式の前日。今年度の部屋割りに従って荷物を移し終えたとたん、ピンときた。  新しいルームメイトは自分に対して密やかに恋情を育んでいる──と。熱情にあふれた眼差しと裏腹、照れ隠し感が漂う仏頂面は、  ──雪也と同室マジ、ラッキー!  しゃべくりまくるより饒舌(じょうぜつ)だった。  いわゆる脳筋男にありがちな、恋愛方面の機微に疎い海斗を憎からず思った。極端な話、前世は伴侶だった相手に巡り会ったような運命さえ感じた。  一向に告ってこない煮え切らなさをヘタレと詰るのは勘弁してあげる。代わりに(はかりごと)を巡らすことにした。  学生寮という箱庭限定のおままごとには一円の値打ちもない、永続的な関係を構築したい。卒業して何年後かに同窓会で再会して、あのころ恋していた、と告白されるパターンくらい興醒めするものはない。  ならば、策を弄するに限る。  雪也はブレザーの袖口から糸くずをつまみ取った。大物を釣りあげるときほど餌の種類が重要だ。オナるで劣情をそそったのにころっと騙されてくれた、イコール(はり)にかかった。シナリオ通りに事が運んで演出に凝った甲斐があるというもの。

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