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始まりの日 -2-
『ガチャ…』
「お待たせ。行く?」
自宅前の門に寄りかかり、イヤホンで音楽を聴いて夕人を待っていた速生は、iPodの音楽を止めた。
「ん。今日、わりと暖かくて良かったな?もしまた雪でも降ったら…と思って俺今日は厚着してるから、いくらでも貸してーーー」
「俺も今日はいっぱい着てるから、大丈夫だよ。お気遣いどうも」
制服の上に羽織ったダウンジャケットの首元を両手で掴んで、また上着貸してやるよ?のポーズを取る速生に、夕人はつん、とそっぽを向く。
(ーー夕人ってば、照れちゃって〜〜)
住宅街を抜けて、大きな道路の横断歩道を渡った2人は、中学校へと続くなだらかな丘を上る。
徒歩通学の生徒たちが、ちらほらと見えてくる。
「ーーねぇ、あれ………誰だろ?」
「ーーあそこ、3年の玖賀くんと、なんか…すごい綺麗なイケメンが歩いてる…あんな人うちの学校にいた?」
「ーーえっ、どこどこ?ほんとだ!誰?あれ、制服なんか違くない…?」
校門が近づくにつれ、あたりから、ざわざわと話し声が聞こえてくる。
その声の主たちの視線の先にいるのは、夕人だとすぐにわかった。
(さすが夕人ーー……やっぱり、これだけ整ってたらな。
なんか、もう別格のオーラが出てるし、しかも、学ランだし)
素知らぬ顔で隣を歩いている夕人の横顔を、速生はこっそり眺める。
白い肌に、長い睫毛、瞳の色は薄いヘーゼルブラウン。寒さから頬はピンク色に染まり、唇はまるで紅を差しているように見えるくらい赤々としている。
少し外国のハーフやクォーターのようにも感じられる顔立ちに、サラサラの黒髪。
(…芸能人とか、そういうのとはまた違うんだよなーー)
黒いコートを羽織りマフラーを首に巻いていても、裾の隙間からちらつく学ランの様子と、夕人のもつ、透明で、まるでガラス細工のような雰囲気は、見る人全てを圧倒していた。
(例えるなら、芸術作品、骨董品ーー、人形とか?
ーー人形…といえば、1/6スケールフィギュア!もし夕人のがあったら欲しいかも……)
「……さっきから、なに見てんだよ」
(ーーー!!俺はなに考えてるんだ!)
夕人が視線を感じて睨むと、速生は頭をぶんぶんと横に振った。
気がつくと、2人は校舎の前まで来ていた。
「じゃ、俺、職員室寄っていくように言われてるから。また、後でな」
「へっ!?あ、そ、そうなのか…!
夕人、頑張れよ!大丈夫!俺、教室で待ってるからな!知らない人ばっかりでも、怖くないからな!大丈夫だぞ!」
速生の必死な顔で励ます様子に、夕人は苦笑いする。
「お前は保護者かよーー…はは、さんきゅ。」
そう言って、夕人は新品の上履きに履き替えて職員室へ続く校舎へ入って行った。
「夕人…頑張れよ」
速生は念を送った。夕人は今頃、きっと心細いだろう…。
もうすでに自分とは顔見知り以上の関係で、その相手が校内にいるということをわかっていて欲しかった。
「そういえば…夕人って、何組なんだ……?」
一緒のクラスになりますように!!
速生は両手を顔の前で合わせて神頼みのポーズを取る。
そして、クラスの教室へと続く階段を上がって行ったーーー。
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