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人気者のきみ
ーーー…
「ーーでは、今日から編入されることになった3年1組の新しい仲間を紹介しますね、相模さん、どうぞ入って。」
『ガラ……』
年配の女性教師の声に、夕人は教室のドアを開けた。
ザワッ…
クラスの生徒たち全員が一斉に、夕人へと視線をうつす。
「ーーー…ちょっとねぇ、めっちゃイケメンじゃない⁉︎」
「ーーー…学ラン、着てる〜!」
「ーーー…あの人さ、朝、玖賀くんと一緒に登校してたよね?」
主に女子生徒たちが、夕人の姿を見て騒ぎ始める。
教師は黒板に、“相模 夕人”と達筆な文字で書いた。
ーーーこういうのって、本当にやるんだ。なんか、変な感じ……。
夕人は気恥ずかしさにしばらくうつむいていたが、ここまできたら、もう腹を括ろう、と思い切って顔を上げた。
「ーーー相模、夕人です。東京の中学から来ました。
残り3ヶ月ほどで短い間ですけどー……よろしくお願いします。」
まっすぐ前を見て、言い切った。
クラス全員の顔を見渡して、
ーーー速生は……いるわけないよな。やっぱり。
実は、速生のクラスは“3年3組”だとあらかじめきいていた。
なので、朝、職員室で渡された名簿に記された、
『3ー1・15 番 相模 夕人』
を見た時は、とても残念な気持ちになったが、こればかりは仕方ない。
『パチパチパチパチ……』
担任教師はその夕人の凛々しい姿に目尻を下げ、拍手をした。
「相模さんはご家庭の事情で急遽転居が決まり、このクラスに編入となりましたので、以前の中学校の制服をそのまま使用して通学する許可が出てます。
みなさん、仲良くするようにね。
…相模さん、わからないことがあれば、何でも聞いてくださいね、心配しなくても大丈夫よ。みんな、優しいからね、安心して」
「……はい、ありがとうございます」
夕人の返事に教師はいっそう嬉しそうに微笑んだ。
「では、そこの空いた席について。
今日はこの後始業式で、その後は希望者のみクラブ活動です。
みなさん、各自帰宅準備をしてから、体育館へーーー…」
夕人が席につくと、隣の席の男子が早速、夕人に話しかけた。
「ーーな、あの担任、“池崎 ”って言うんだけど、イケメン男子大好きでひいき半端ねぇから、“イケズキ”って呼ばれてんだぜ。ウケるくない?」
「え……そうなの?」
その言葉に夕人が担任の顔を見ると、池崎先生はニンマリと笑って夕人へ熱い視線を送った。
「あの顔は“ロック、オン!”だな。
あいつ、俺になんてひどいぜ?職員室まで提出物持って行っても、目も見ねぇから」
「はは……なんだ、それ」
突然反応に困る話題に夕人が苦笑いしてると、
「玖賀の隣に引っ越してきたのって、相模くんだよな?よろしく、俺、伊勢 。」
「あっーーー、うん。よろしく…」
ーー速生の知り合いなんだ、でも、なんで俺のこと知ってんだろ。
『キーンコーンカーンコーン……』
HR終了のチャイムが鳴り響く。
「つぎ、体育館移動だな。相模くん、良かったら一緒に行こーーー……」
伊勢が立ち上がって話しかけたその時、
ーードタドタドタ!
「ねぇっ!相模くん!!その学ラン超かっこいい!どこの中学から来たの!?」
「もしかしてどこか事務所とか所属してんの?読モ?地下メン!?エステとか通ってる!?」
「え、鼻たかっ!睫毛ヤバっ!もしかしてメイクしてる?
え、天然でそれってやばくない?
もしかしてハーフ!?」
クラスの女子たちが一斉に、夕人の机に群がった。
「いやー……えっと…………その……
ごめん、俺、体育館行くんで!」
そう言って夕人は立ち上がり、女子の群れの中を走り抜けた。
「あっ、伊勢…くん!
体育館まで、一緒に行ってもいい?」
「ん?あ、あぁ…全然いいんだけどさぁ…」
伊勢はチラ、と後ろを振り向くと、夕人を取り囲んでいた女子たちが、うらめしさのこもった表情で睨みつけていた。
(ひぇっ…
まるでハイエナじゃん…女子こっわーー!)
夕人と伊勢が廊下に出ると、もう既にそこには、転校生の夕人を一目見ようと、色んなクラスから生徒が集まっていた。
「ーーほら出てきたよ、あの子!転校生の…やばい、めっちゃ綺麗な顔……!」
「ーーイケメン×学ラン、まじ尊い〜〜〜」
「ーーちょっと、K-popグループのテヨンに似てない?」
熱い視線の中、体育館までの道のりがとても長く感じる。
「なんか、イケメンも色々大変だな…俺にとっちゃ羨ましい限りだけどさ…」
伊勢の言葉に、夕人はただ苦笑いする。
ーーその時。
「夕人ぉーーーーーー!」
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