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初めての夏 1-2

「へぇ……夏の風景探し?いいじゃん、面白そう」 夕人は速生に事の顛末を話した。 「うーん……。 ただ、夏って言われても、どこ探したらいいのか全然ピンと来なくてさ」 その言葉に速生は少し考えると、突然何かを思いついたように、立ち上がった。 「よし!夕人、出かけるぞ!」 「え、えぇっ?今から!?いや、俺なんの準備も……」 「大丈夫だって!ほら、おじさんのデジカメ持って……あっ、帽子かぶれよ?外もう結構暑いからな」 夕人は「ちょっと待って、」と慌てて財布とスマホ、父のデジカメを手提げ鞄に放り込んで、速生のあとを追って部屋を出た。 『ジーワジーワジーワ………』 家の外に出た途端、むせ返るような熱気と、激しい蝉の声に夕人は驚く。 「あっついなーー…ほら夕人、バス乗るぞ!」 「え、あぁ……うん」 速生、一体どこへ行くつもりなんだろう?   ーーー… 普段、通っている高校とは違う沿線。 いつもと反対方面へわずか10分ほどしか走ってないというのに、あたりには全く見たことのない景色が広がっていた。 「ここってーー………?」 速生に導かれるまま、バスを降りる。 二人は、日陰を探しながら、一緒に歩いた。 「あのさ、もし疲れたりしたらすぐ言えよな? 今からいろんなところ歩いて、夕人が夏っぽい!って思ったものがあれば、すぐに写真を撮るんだ。いい?」 夕人は速生の言葉に頷いたが、見知らぬ土地の景色に戸惑いつつ、周りをきょろきょろと見回す。 「普段来ないからこの辺、全然道分かんないけど……」 「大丈夫だって。 よし、まずは……こっち!」 速生が夕人を連れてきた場所は、大きな道路に架かる歩道橋の上。 「わぁ…………」 おそらくここ一帯の中で一番広く有名な、大きな川を見下ろしていた。 広い河川敷。 少し離れたところには、熱気の立ち込める芝生の少年野球グラウンドが見える。 水辺の近くのためか、あまり暑さを感じない。 「ここ、いいだろ? 夏といえば……涼しげな水辺かな?って。川の近くって、ほんと涼しいしいいんだよ」 目の前に広がる大きな川を、夕人はただ黙って、見渡した。 青空のブルーが映る澄んだ水面には、照る日差しが反射してきらきら、とまばゆく光る。 「うんーーー……すごく、いい」 夕人はデジカメを構えた。 『ーーカシャ、カシャ……』 速生はその夕人の姿を、黙って見ている。 ーーー速生、なんだか、すごいな。 ーーーなんでこんなに、いろんなことを知ってるんだろう。 それから二人はまた、ゆっくり歩き始めた。 初めて通る、見知らぬ住宅街。 雑木林の横の、壁の落書き。 街路樹に止まる、蝉のつがい。 町の外れの、神社の鳥居。 夕人は一つ一つ、見つけるたびに目を輝かせては、シャッターを切った。 速生はただそれを黙って見ながら、後ろからついて歩く。 ほとんど話すことはなかったが、まるで子供のように、はしゃぐようにただカメラで風景を撮りつづける夕人の姿が、とても微笑ましく……… ずっと、見ていたいとすら思った。

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