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初めての夏 1-4
「夕人…………会いたかった?瀬戸さんに」
「えっ?いや、別に?………なんで?」
出来るだけ冷静に、冷静に…と自分に言い聞かせつつも、ただ気になって、仕方ない。
「だって……最近夕人、その人の話ばっかりするからさ……。
あの瀬戸って人のこと、えらい好いてんだなーーって…」
なぜそんなことを聞かれるのかと不思議そうにしていた夕人は、速生の少し拗ねたような顔を見て、ははっ、と笑う。
「なんだよ、妬いてんの?
そんなの、速生の方が好きに決まってんじゃん」
「………………えっ?」
ーーーーガタッ!!
突然真顔になり、速生はベンチから立ち上がって夕人の顔を見つめた。
「え、夕人……?いま、何てーーーー…?」
「はっ!?え、いや、っその……っ
じょ…冗談に決まってんだろ!?
ーーーな、なに本気にしてんだよ!」
「冗談………?」
本気で驚いた速生の顔。
思っていたのとはまったく違う速生の反応に、夕人は顔を真っ赤にして慌てふためいた。
(なんだよ……冗談か………)
速生は、少し残念そうに、それでいて、どこかホッとしたような表情で、”夕人が冗談言うなんて珍しいな”と呟く。
そしてふと、空を見上げた。
あかね色に暮れ始めた空。
まるで真っ二つに切るように、飛行機雲がかかっている。
駅前に設置してある大時計に目をやると、もうじき夕方の5時を指そうとしていた。
「もう、こんな時間かぁーー……」
あっという間に経つ時間。
”そろそろ帰ろう”という言葉を、どちらから言うか。
「………………」
夕人も、速生も、言葉を発さないのは……
最近、やたらと時間が過ぎるのが早く感じるのは……きっと、ずっと、二人でいるから。
よくわかっていた。
いつもそうだ。
楽しくて、時間が惜しい。
「………あ、速生。見て、あそこ」
ふと夕人が、駅から出てくる若い女性たちの姿に気が付いた。
浴衣姿の彼女たちは、はしゃぎながら、駅から商店街へと続く道を歩いている。
「浴衣…。今から、何かあるのかな?」
「ーーー…な、ちょっと、行ってみる?」
速生の問いかけに夕人は頷き、二人は商店街の方へ向かって歩き始めた。
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