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初めての夏 2-3

『キーンコーンカーンコーン…』 「はーい、じゃあ今日の授業は終わりなので各自下校ー。部活動出る生徒は、部室移動なー。」 担任教師の言葉に、クラスの生徒たちは「部活出る?」「お昼マック寄って帰ろうよー」などとはしゃぎながら、教室を出て行く。 「げほっ…ごほ、ごほっ……」 ーーーあ…これ、ヤバいやつだ……。部活なんて無理、すぐ帰ろうーーー… 今にも震え出しそうな寒気と、ズキズキとひどくなる頭痛。 夕人は朝よりも激しくなった咳を堪えながら、通学鞄を腕に抱えて黙って教室を出ようとした。 「ーーーおいっ、夕人!」 どこか様子がおかしい、そう感じた速生は、急いで夕人を追いかけて廊下で腕を掴んで引き留めた。 「な………なに…………?」 真っ赤な顔をしてはぁはぁと息を切らす夕人。 マスクで隠れて表情はあまりわからないが、明らかにいつもとは違うその姿を見て、不審に思い速生は夕人の額に手のひらを当てた。   「あっつ…!」 まるでお湯の入った急須にでも触れたのかと思うほどの、夕人の体温の高さに驚く。 「夕人、お前熱あるだろ!?しかも相当高いぞ!」 「んん……ごほっ、大丈夫だよ……このまま、一人で帰るから……。 速生、部活……出るんだろ………?」 今朝、速生はバスケ部の県大会メンバーに選ばれたと聞いたばかりなのだ。 これからたくさん練習に入らなければならないことくらい、夕人にもわかっていた。 「そんなふらふらで、一人で帰れるわけないだろ? 俺、今日は練習休むよ。一緒に帰ろう」 「いや……でも、そんな………」   ごほごほっ、と咳き込みながら、首を横に振り続ける夕人に痺れを切らした速生は、「あーもう!」と、夕人の腰に手を回すと、通学鞄を奪い取った。 「ごちゃごちゃ言わなくていいから、ほら、帰るぞ! これで夕人を放っておいたまま部活出たって、心配で練習にならねーから」 「うぅ………でも………」 「………よし、わかった、抱っこだな?ここからバス停まで?家まで?」 速生の怒った顔を見て観念した夕人は、素直に頷いてふらつきながら廊下を歩いた。 (ーーやっぱり、朝からどこかおかしいと思ったんだよ……夕人、体調悪かったんだな) 校舎を出てなんとかバス停にたどり着いた二人。誰もバスを待っていないことに安心して、速生は夕人をベンチに座らせた。   「夕人、家、おばさんいるんだろ?帰ったらすぐ病院連れて行ってもらえよ?」 速生の言葉に、ぼーっとする頭で考えた夕人はしばらく沈黙のあと、はっと思い出したように、 「母さん、今日仕事で出かけるって…ごほっ、言ってた………」 「えっ、マジかよ……。じゃあとりあえず、連絡だけ入れとけよ。ほら、メッセージ打てる?」 うん、と頷いて、スマホを鞄から出そうとするが、熱が上がりすぎたせいか、手が震えてうまくいかない。 「あぁ……っ、いや、ごめん、もう無理すんな! 俺、送っとくから、携帯勝手に触るよ?いいな?」 「………………ん」 普段から口数の少ない夕人が、体調不良によりさらに喋らなくなってしまうのはみるに耐えない。 「ほら、俺の肩持たれていいから。寝てて? バス来たら、起こすよ」 夕人は素直に、速生の肩にストンともたれかかって目を閉じた。 こんなにも素直に甘える姿を、今までに見たことがあっただろうか? (夕人、よっぽどしんどいんだなーーー……) いつもは意地張りな夕人に頼られることが嬉しい反面……心配な思いで複雑な心模様の速生は、夕人の肩に手を回して、ぎゅっと支えた。

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