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告白 2-1

ーーー… 学校から市立図書館へと続く歩道を歩く速生。 通りに植えられた銀杏(いちょう)の木には満開に葉が茂渡り、並木道は辺り一面黄色く染まっていた。 自宅からだと自転車でもほどほどにかかる距離の市立図書館も、高校からなら速生の早足で10分ほど、ちょうどいいウォーキングコースだった。 (市立図書館ーー…なんか懐かしいな) 普段ほとんどと言っていいほど本を読まない速生が、図書館の貸出カードを作ることになったのは、ちょっとしたわけがあった。 中学三年の、夏休み。 単身赴任で普段家にいない父が帰省していたあの夏、国語の成績が散々だった速生に、父が課した“図書館通い”。 『夏休みの間、1日1冊、必ず本を読みなさい』 そう言った父は、夏休みの最後に達成した褒美として、新しいバスケシューズの購入を約束した。 お父さんは甘やかしすぎよ!と横で怒る母を横目に、父は”まあ、きちんと守れたらな。”と 笑っていた。 家を不在にしており普段接する機会が少ない息子に、条件付きでも何かしてやりたい、という父からの思いが感じ取れた。 そして夏休みの間、速生はバスケの練習の後になると足蹴無く図書館へと通った。 初めは苦痛だった読書も、選ぶ本を考えることで楽しさを見出していく。 (確かあの頃は、いろんな本借りたなぁーー…。) 図鑑、スポーツ関連の本や、エンターテイメント書籍……小学生の頃読んでいた児童書を懐かしさの余り読み返してみたりもした。 父との約束の期間が終わった後も、しばらくは習慣づいたためか図書館に通い続けた。 (ーー俺、常連みたいになってたよな。受付のおばちゃん、まだいるかな) スポーツジャケットのポケットにカードケースを入れたまま、部活と図書館と家を行き来していたあの頃を思い出す。 そんなことを考えているうちに、図書館の前にたどり着いた。 市の施設なだけあり、二階建ての広く綺麗な建物の前には、綺麗に整備された花壇や、休憩スペースも設置されており、館内で借りた本をそこで読書する年配者なども多かった。 懐かしいな,と思いながら入口に近づいた時、ふと、ベンチに座って俯いている老女の姿が目に止まった。 荷入れなどに使える押し車の取手を持ったまま、腰を下ろして、静かに下を向いている。 「ーーーあの…おばあちゃん………大丈夫ですか?」 気になった速生は、思わず声をかけた。 しゃがみ込んで様子を窺っている速生の声に気付き、ゆっくりと顔を上げた老女は、あぁ…と言って柔らかい笑みを浮かべた。 「大丈夫だよ、ちょっと散歩をしていたんだけど……腰が痛くなっちゃって……。少し休憩してるだけだから。 あなた、優しいわねぇ」 若い男の子なのによく気がついて、と嬉しそうに微笑む。 「いや、それならいいんだけどーー……気分でも悪いのかなと思って…」 「ありがとうねぇ。少し休んだら歩いて帰れるから…大丈夫。あ、あなた、これどうぞ」 老女はそう言うと上着のポケットの中から、個包装された飴玉を3つ取り出し、速生に手渡した。 ”イチゴ味”と書かれた飴玉を受け取った速生は、笑顔で「ありがとう」と答えた。 幼い頃から近所の老人ホームでたびたび行われるイベントに、介護福祉士の母に連れられ参加していた速生は、高齢者に対する馴染みが強かった。 人懐っこい性格柄、速生は老齢の利用者たちからいつもとても可愛がられ、まるで自分の祖父母のように彼,彼女らと親しんだ記憶は、成長した今でも忘れることはない。 (あのおばあちゃん、本当に大丈夫かーー…?どうも気になるんだよな…) 速生はベンチで休む老女を気にしながらも、図書館の入口の自動ドアをくぐった。

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