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告白 2-5

ーーー… どれだけの時間走り続けただろうか。 薄暗い空、“M市立総合病院”の看板が見えてきた。 夕人はおぼつかない足取りと乱れた呼吸で、病院の夜間救急入口に辿り着いた。 「はぁっはぁっ、はぁっ……」 立ち止まった途端、額から汗が吹き出て、全身がまるで内側から炎で焼かれてるように熱い。 ふらふらと救急入口のドアを押して中へ進む。 受付と書かれたガラス張りの小窓の中、職員に向かって切れ切れの息と口調で話す。 「あの……っはぁっ……ここに運ばれてきた……っ…高校生の……っ玖賀、………はっ」 「あ……っ玖賀さんのご家族さんですか?そちらの第2処置室にーー……、だ、大丈夫ですか?」 夕人は受付の職員に相槌も打たず、走って第2処置室に駆け寄り、ノックすることも忘れてスライドドアを勢いよく開けた。 「速生ーーーー……っ!!」    そこには、一人、診察台ベッドの上に腰掛けている速生がいた。 右足首に包帯を巻いた速生は、突然現れた夕人の姿を見て驚く。 「えーーー…?ゆ、夕人ーーーー…?なんで…」 「はぁ…っ……はぁっ……、なんで、って、それは………こっちのセリフだろっ!……速生、お前なに……はぁっ……何やって……っ」 息を整えようにもうまくいかない。額から汗が滝のように流れて、止まらず、顔は火照ってまるで真夏の炎天下にいるように熱くて仕方ない。 夕人は両膝に手をついて下を屈むとはぁ、はぁ、と苦しそうに息を吸っては吐いてを繰り返した。 今までに見たことのない夕人の様子に速生は驚きつつも、はっと現状を理解した。 「もしかして……夕人、走ってきたのか……?ここまで……」 「…………はぁっ………はぁっ…」 少しの沈黙の後、速生は気まずそうに口を開く。 「ごめん、実はーー…いろいろあって。 図書館の前で、転けそうになったおばあちゃんを助けたんだけど、その拍子にバイクが歩道に乗り上げて来て……咄嗟に庇ったら、足、グキッちゃってーー…。あの、これ、ただの捻挫だから…」 「な、なんで…っ救急車でーーー…」 「いや、断ったんだぜ?大丈夫だって…。 けどとにかく乗れって言われてさ…!おばあちゃんもタンカに乗せられてるし……もしかして俺、そのおばあちゃんの孫と思われたのかな?はは……ほんと、参るよな……」 動揺した様子で、変に作り笑いをする速生。 「なんだよ……それ………っ」 やっと少しずつ呼吸が落ち着いてきた夕人は、制服の袖で額から滴り落ちる汗をごしごしと拭った。 安心したせいか、思わず、例えようのないものが胸に込み上げてくる。 「バカ速生………っ なに、やってんだよ……。どこにもいないし、電話も繋がんないし…。 そしたら救急車で運ばれたとか…言われるし… 俺、死ぬほど心配して………っ…なにかあったら、ほんとどうしようかと…っく………うっ、ひっく….良かった………」 「夕人ーーー…………」 大粒の涙がとめどなく溢れて、止まらない。 言いたいことはたくさんあるのに、言葉にできず、ただ、泣きながら……今までに見せたことのない表情で、夕人は、速生を見た。 「ごめっ……俺のせいで………ひっく……俺が,1人で図書館行かせた……っから……ひっく……事故とか………はや、み……本当に、ごめん……うっ」 「違うって、夕人、お前のせいなわけないだろ……泣くなよ……なぁ………」 ーーー本当に、怖かったんだ。 何かあったら…もし速生が、俺の前からいなくなったりしたら、どうしよう、って。 怖くてどうしようもなかった。 「夕人……こっち、来てーーー?」 「嫌だ。ーー……バカ。見んなよ……ひっく……」 振り返って背中を見せて、止まらない嗚咽を堪えて、どうにかおさまるように、顔を押さえて俯いた。 「…………」 ーーーギシッ 速生は立ち上がった。 よろ、よろと痛めた右足を庇いながら、夕人に近づく。 「!…速生、立ったら危なーーーーー…」 その時。 夕人は振り向きざま、まるで思考が停止したように頭の中が真っ白になった。 「………………………っ…」 気づくと、後ろから、力強く……速生に抱きしめられていた。 「え……っ…?は、やみ………なに………」 耳元に、速生の吐息がかかる。 「……………好きだ」

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