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交わされるきみへの想い 2-2

「怒ってるって言ったら……どうすんだよ」 速生は夕人のその様子にヒヤヒヤしながら、言葉を探す。 「な、何でもするから許してくださいって感じ……です。 あ、その、ただし”目の前からいなくなれ”とか、そういうのはナシで……」 「ふぅん………」 子犬のしょぼんと垂れた耳が見えてきそうなほどに、情けなく下を俯いた速生を見て、妙な優越感に浸る夕人は,もう一度聞き返す。 「何でもすんの?ほんと?男に二言はないな?」 「あ、いや、ごめん、やっぱり内容によりますごめんなさい…。 レベルで言うなら町内パンイチで1周くらいまでで…」 「はぁ!?いやむしろそれをしろって言われて出来るのすごすぎだろ……ば、バカじゃねぇの」 そんなことさせるわけないじゃん、とつい笑ってしまった夕人を見て、速生は顔を輝かせる。 「やっと、笑ってくれた………」 「ーーー…え?」 「いや、だってあれから、夕人ずっと、なんていうか…… 俺の顔全然見ないし、あんまり喋ってくれないし……すげぇ怒ってただろ……」 その速生の言葉に、夕人ははぁーーーーと大きなため息をついた。 「バカ!怒ってんじゃなくて…!だから……そんなの…はっ、恥ずかしいからに決まってんだろ! あんな……あんなことしといてさぁ……普通に出来る方が、おかしいって………」 目の前に本人がいるにも関わらず、あの時の情景を思い出してしまう。 自室で、ひたすら口づけを続けた、あのとてつもなく……甘く、熱く、とても長く感じた時間。 今でも、すべて覚えている。 生まれて初めての……ファーストキス。 唇が触れ合った感触、強く抱きしめられて、されるがままに………それを受け入れたこと。 速生の、(たかぶ)った、ただひたすら自分を求める瞳ーーーー…。 「〜〜〜〜〜〜〜っ…………」 夕人は顔を真っ赤にして俯いた。 その様子を見て、速生は「あっ、もう……無理」と呟く。 「夕人、お前……それ、わざとなの?それとも無意識?ほんと、可愛すぎる……。 恥ずかしいのは、俺も一緒だよ?大丈夫。」 「な、何が大丈………ーーーっ!」 ーーーチュッ 速生は背を屈ませて、夕人の真っ赤に染まった耳に口付けた。 「ばっ………お前っ!な、ここ、外!….あ、! だ、誰かに……見っ……ーーー 〜〜〜〜〜バカ!!」 すぐさま左耳を両手で押さえて急いであたりを見回す夕人。 動揺しすぎて言葉が吃ってしまい何を言っているか自分でも訳がわからない。 「もう、したもん勝ちかなって……大丈夫、誰もいないし。 別に見られても………俺はいいけど」 「よくない!〜〜〜〜…もう、いいっ!! ーーーー今日は別行動な!」 「えっ!?いや、そっそれはナシで! ごめんなさい!」 夕人は真っ赤な顔でスタスタと歩いてバス停に向かう。 速生は、にやけてしまう口元をなんとか隠しながら、ひたすら追いかけた。

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