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交わされるきみへの想い 2-7

ーーー… 「ーーー部長、ごめんな。交代するよ」 美術部室に着いた夕人は、“受付”と書かれた札の置かれた部室前の長机で遅めの昼食をとっていた美術部部長に声をかけた。 「ああ、いいんだよ。 別に俺、特にまわりたいとことかないし……代わってもらっても、どうせぼっちだし……」 サンドイッチを食べ終わった美術部部長はそう言うと、ずん…と落ち込む。 見るからに真面目と顔に書いてある彼にとって、大勢がはしゃいで回る文化祭の中では、この部室が1番居心地が良かったようだ。 「自分でぼっちとか言って落ち込むのやめなよ……。 ほ、ほら、高校生活最後なんだし、一応見るだけでもまわってきたら?何か思い出できるかも……」 “ひとりで何の思い出ができるって言うんだよ…”と呟く部長を横目に、あちゃーという顔の夕人。 普段他人に気を遣わないせいかこう言う時のフォローもなかなかうまくいかない。 さらにずん…と下を俯き落ち込んだ美術部部長の前に、ある人影が。 「おう!美術部部長っ!来てやったぜ!悪かったなぁ、遅くなってよ〜!」 「……………へ??」 美術部部長が顔を上げるとそこには、軽音部バンドボーカル兼任の軽音部長が立っていた。 エルヴィスプレスリーを意識してか、黒髪をワックスでリーゼント頭に固めて、カッターシャツの襟を立てている彼は、やる気に満ち溢れている。 「いや準備に手間取ってな〜〜!ライブステージ、やっと思い通りの出来に仕上がったからメンバーに言って急いで抜けてきたんだよ! お前らの作ってくれたパネル、マジ最高だぜ!おっ、相模王子!あんたもありがとな! もう本番が楽しみすぎて今ここでリハしたいくらい………」 「えっ??い、いや軽音部部長、な、なんでここに?」 軽音部部長の勢いにおされつつ、美術部部長は顔を?マークにしてパイプ椅子ごと後退りする。 夕人は“なんか面倒臭いやつきた……”と言いたそうな顔で黙ってそれを見ていた。 「あぁ〜〜?お前が言ったんだろ〜!?ファブリックパネル作る見返りに、美術部の展覧会観に来てくれって。 人気も知名度も高い俺様が来れば美術部も集客に繋がるからってーーー…。 さすがお前、俺のことよくわかってんなぁ!」 「え!いや、そ、そんなつもりじゃ……! ただちょっと、観に来てくれたら嬉しいな、くらいの気持ちで……」 美術部部長は顔を真っ赤にして慌てふためく。 夕人はその2人を見て,思いついたように軽音部部長に話しかける。 「あのさ?まだうちの部長…クラスと部の出し物何もまわれてないんだよ。ずっとここの受付の番してくれてたからーー……」 「えっ!?ほんとかよ!?美術部部長……お前,ほんっといいやつだな〜〜!部長の鑑だな!そういう人情に厚いやつ、嫌いじゃないぜ! ……よし、じゃあ俺と回ろうぜ!?パネルのお礼に何でも好きなもの買ってやんよ! ほら立て!行くぞーーっ!」 「え!?えええー!?!ちょちょっと引っ張んないで!さ、相模くんーーー!」 “受付は俺に任せて。”とニンマリ笑って、軽音部部長に引きずられて行く美術部部長に手を振った。 ーーーガタタッ 「さてとーーー…」 夕人は一人呟くと、パイプ椅子に腰掛けて長机の上の受付票に目を落とす。 パラパラ、とページをめくり、来場者の数をかぞえた。 名前を記入してもらうことに特に深い意味は無かったが、どれほどの人たちが見に来てくれたか、記録として残すのはまた今後の活動に役立つかもしれないということで、例年続けられていることであった。 ーーー速生、どうしてるかな…。 ふと気になってしまう。 ーーーせっかく、高校最後の文化祭なのに、一人にして悪かったかなーー… ーーー部長たちが戻ってきたら,急いで体育館前へ向かおう……。 なんだかんだ言いつつ速生には甘々な自分に少しうんざりしながらも、それがむず痒いようで、だけどどこかーー… 自分以外の誰かに優しくなれる自分を、褒めてあげたいような気持ちになる。 ーーーこの三年間で、きっと、自分はたくさん変わった。 ーーーとても、いろんなことがあった。 いろいろなことを乗り越えて,今の自分があるのは、きっとーーー…。

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