104 / 113

交わされるきみへの想い 2-9

「あぁ、おかげさまで楽しくやらせてもらってるよ。 実は俺いま、守江ーー…幼馴染でこの高校の元バスケ部のやつとルームシェアしててね。 そいつはN体大だから、お互いの大学のちょうどあいだくらいのところに家を借りてるんだよ」 「へぇ……あ、じゃあ今日はその守江さんって人と一緒に?」 夕人の問いかけに、いや、実はね…、と後ろを振り返る。 「ーーーこんにちは。 君が、相模くんーー…だね。はじめまして」 瀬戸の後ろには、黒いスーツを着た年配男性が立っていた。 首からは、入場受付で配られる“来賓者”と書かれた赤い紐のカードを下げている。 「この人、僕の叔父なんだけど。 M美大油絵専攻科の教授でね…相模くんに会って話したいってことで、今日は一緒に来たんだ」 「M美大のーーー?そう、なんですか……。 初めまして、相模です」 夕人はその瀬戸教授を一瞥する。 黒いスーツに白髪混じりの髪の毛は綺麗にセットされておりとても紳士な印象で、歳は50代半ばだろうか、目尻に刻まれた皺からは優しさの中にもどこか厳格さを感じられる。 ーーーT芸大の次に有名ともいえる名門校M美大の教授が、俺に、何の話が…? 「相模くん。少し、二人だけで話せないかな? そこの中庭でも歩きながら……」 瀬戸教授の問いかけに夕人は「あ、でも俺…この受付が」と言いかけたところで、瀬戸が手をポンと叩く。 「相模くん、行ってきなよ。俺受付の当番代わるから。ここに座ってたらいいんでしょ?楽勝楽勝」 「あーー…じゃあ、すみません。少しだけ……」 夕人は席を立ち瀬戸教授とグラウンド横の中庭へ向かった。 「うーん…暇だし、そろそろ守江でも呼んでやるかな。ーーあ、もしもし?いまどこ? ………え?アイスが溶けて大惨事でトイレ待ち?……ぷっ、あ、いや…ドンマイ守江。 じゃ、落ち着いたら美術部室来てよ」 瀬戸は笑いを堪えながら、受付のパイプ椅子に腰掛けた。

ともだちにシェアしよう!