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交わされるきみへの想い 3-3
「すみません…………
ーーーーーー……言えません」
夕人は俯いたまま、小さく答えた。
その答えに、瀬戸教授はふぅ、と小さくため息をつき、頷いた。
「ーーー…いや、いいんだよ。
悪かったね。
突然来て、図々しいことを訊いてしまって」
その言葉に夕人が顔を見上げると、瀬戸教授は、優しく笑っている。
残念そうに目尻を下げた、柔らかいその笑顔は、どことなく先輩の瀬戸に似ているような気がして、夕人は少しだけ安心をした。
「……けど、本当に、そんな風に言ってもらえて…嬉しいです。
自分の描いた絵をそんな風に誰かから認めてもらえるなんて、思ってもみませんでした」
たとえ期待に応えられなくても……本当に、素直に嬉しいのは嘘ではない。
「ーー君は、もう少し自分を褒めてあげた方がいいかもしれないね。
もっと、自信を持ったらいい。
あまり偉そうなことは言えないが……有名な名門美大の教授が直接顔を見て、ぜひうちに来てほしいと誘いに来るほどに君は優秀だということを、忘れないでほしい。
ーーー遅くなったけど、渡しておくよ」
そう言って瀬戸教授は、夕人に名刺を手渡した。
“私立M美術大学 油絵専攻科教授 瀬戸忠晴”
「もし、気が変われば……いつでも連絡して欲しい。しつこいかもしれないが、待ってるよ。
卒業ギリギリでも、学校を通してくれれば受験の準備に入れるよう、手配できるからね」
「ーーーはい…
ーーーー……ありがとうございます……」
夕人は渡された名刺をとても複雑な表情でじっと見つめてから、制服ブレザーの内ポケットの中へと大切に仕舞い込んだ。
それから二人はゆっくりと、美術部室へと戻った。
静かに、黙ったままーーー…。
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