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第6話

 事件が解決してから数日後に、三笠は再び二丁目のルリ子ママの店を訪れた。事件も1つ解決したため、ホッとしたのだ。  しっぽりと一人で静かにカウンター席で飲んでいると、男性客が一人入ってきた。三笠が来店してから三十分ほど経っただろうか。 すると、入ってきた男を見て三笠は唖然とした。入ってきた男が蒼空だったからだ。 「君……」 「あ……」  蒼空の方も三笠を見付けて驚いたようだ。そしてすぐさま気まずそうな顔をした。しかし三笠は、穏やかな笑みを向け蒼空を誘うことにした。 「良かったら、一緒に飲まない?」  一瞬躊躇ったものの、蒼空は三笠の隣の席に腰を下ろした。 「ジントニック……ください」  蒼空はようやく聞こえるくらいの小さな声でルリ子ママにオーダーした。 「はい。ちょっと待ってね」  ルリ子ママは、笑顔で応じると手早く酒を造る。 「あれから、元気にしてた?ずっと気になってたんだ。君がどうしてるか」 「……」  蒼空は俯いたまま、何も話さない。警察を出てから、何かあったのだろうか。三笠はますます心配になってしまう。生来のお節介焼きのせいかもしれない。 そうしている間にジントニックが蒼空の前に置かれ、彼はそれに口を付けた。 「良かったら、相談に乗るよ?」 「……実は、あの後仕事をクビになったんです」 「え、工場を?」  三笠は驚いた。蒼空は解放されてからどうしているのか気になっていたが、まさか仕事を辞めさせられていたなんて思いもしなかった。 「はい……。俺が母さんを殺したと疑われたから、世間体が悪いとかって……社員寮も追い出されました」 「え?本当に?何もそこまでしなくても。君は何もしてないのに……」 「一度容疑者になってしまえば、やはりどこからか噂が入ってきてそれが広まるから、置いておけないみたいで」  そう言いながら、蒼空は肩を落とした。 「それはあんまりじゃないか!」  つい、三笠は理不尽さに怒りを覚えた。確かに蒼空は事情聴取を受けたが、逮捕されたわけではない。これは不当解雇ではないのか。 「不当解雇だろ?そんなの。労働基準監督署に……」  言い終わる前に、蒼空が手で遮った。 「仕方ないんです。俺、会社に前から辞めさせたがられてるの気付いてました。今回のことは、辞めさせる良い口実だったんだと思います」 「そんな……」  蒼空の乾いた笑顔に、三笠は何ともやるせない気持ちになった。 「体のいいリストラに遭っただけです。厄介払いされたって感じですかね」  蒼空は無理に笑ってみせるが、その笑顔が痛ましい。 「今は、どうしてるの?」 「友達のところに世話になってたんですけど、ちょっとそろそろ無理になってきて……ネカフェで寝泊まりしてます」 「なるほど……」  聞いていると、三笠の胸も苦しくなる。 「新しい仕事も探してるんですけど、なかなか……」  金はあまりないのだが、飲みたくなり久々にここを訪れたのだという。 「もし、もしよかったらなんだけど……」  三笠は思い切って切り出した。 「はい?」 「君さえ良ければ、うちに来ない?」 「え?」  蒼空は大いに驚いたようだ。戸惑いに瞳を揺らしている。 「広いわけでもないけど、君の部屋は確保できるよ。俺は一人暮らしだし気兼ねしなくて良いし」 「で……でも……」 「今日もネットカフェに行くつもりだったんだろ?俺はいつまでいてもらってもいいからさ。ぜひおいでよ。な?」 「いえ、俺は殺人犯の息子ですよ?そんなわけにはいきません」 「そんなこと。君が悪いことしたわけじゃないだろ?」 「そうですけど……いいんですか?」 「もちろんいいよ。迷惑じゃないから、気にしないで」  三笠は笑顔を向けると、少し思案した後で頷き「じゃあ、お願いします」と小さな声で呟いた。 「よしっ!じゃあ、決まり!」 三笠がそう言うと、ルリ子ママが近付いてきた。 「何々?もう二人仲良くなっちゃったの?」  興味深々といった感じだ。 「いや、ちょっと……」  三笠は笑いながら胡麻化した。事情はあまり細かく話さない方が良いかと思ったのだ。 「あら、いい雰囲気じゃない」  なおもルリ子ママは追及してくるが、雰囲気良く見えるだろうか。

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