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第13話
「本気の恋愛ができなくなったんです。そして、誰彼構わずヤるようになりました。まぁ、あの時の反動ですよね」
「へぇ、それは悪かったな」
三笠には、東郷が本当に謝っているようには感じられない。
「あんなことせずに、言ってくれてたら……変わっていたかもしれないのに……」
「そうだよな……勇気がなくて、欲が勝っちまった……」
「いきなりあれじゃあ、アンタのこと真面目に考える暇もないですから」
自身の責任もあるかもしれない。しかし東郷のしたことによって、三笠の人生に暗い影が落ちたことは間違いない。
「まぁな。でもさ、一発やってみて分かることもあるだろう?」
東郷がこちらに手を伸ばし、下卑た笑みを見せた。
「なぁ、この後俺んち来いよ。な?いいだろ?」
東郷が片方の口角を上げて笑うのを見て、三笠は背筋にうすら寒い感覚を覚えた。
「ホラ、行こうぜ。もう食い終わってんだしさ」
過去の反省どころか、しつこく絡んでくる。本気なのかどうかは分からないが、酔いも醒め気分が悪くなってきた。
「やめてください……」
ここまで腹の底から声を出したのは初めてかもしれない。
「え?何?いいじゃねぇか。俺と付き合えよ。いい思いさせてやるから」
「要りません。もう二度と、会うことはないでしょう。失礼します」
そう言った三笠は、東郷の顔をろくに見ることもなく席を立った。そして、少し多めのお札を置いて店を出ていった。その後の東郷がどうしたかなど知らない。後で何かされたとしたら、その時だ。今は逃げることしか考えられない。
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