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第20話

 夏の暑さが少し和らいできた頃、出先から戻ってきた三笠を警察署の前で男が待ち構えていた。 「あんた、三笠って刑事だろ?」  不躾な物言いに、三笠は相手を睨んだ。 「誰だ?」  そう尋ねて、三笠は直ぐに思い出した。 目の前にいる男は、以前蒼空とカフェにいた男だ。 「あ……」 このガラの悪さは間違いない。 「俺は、蒼空と一緒に働いているもんだよ。アンタ、刑事の三笠だろ?」 「そうだが。何の用だ?」 「ちょっと話があんだよ。顔かしてくんねぇか?」 「何なんだ、いきなり」  三笠は不快でしかなかった。 「時間はそんなにとらせねぇよ。カフェにでも付き合ってくれよ」 「……まぁ、そろそろ昼にしようと思ってたし。少しなら……」  警戒心をマックスにして、三笠は突然現れた男と署から歩いて五分の場所にあるカフェを訪れた。 『なんで、俺がこいつとカフェに来なきゃなんないんだ……』  そうも思うが、来てしまったものは仕方ない。  窓側の席に向かい合って座り対峙する。 「アンタの名前は?」 「俺か?……俺は須藤だよ。須藤」 「それで、話って何なんだ?」  アイスコーヒーを一口啜り、三笠が尋ねた。 「単刀直入に言うわ。蒼空と、別れてくれ」 「え?いや、別に彼とは付き合ってるわけじゃない」 「そうなのか?」  男は訝し気な顔をした。 「そうだ。彼から、俺のこと聞いたのか?」 「アンタと、一緒に暮らしてるって聞いた」 「確かに一緒に住んでるけど、特別な意味はない」  そう言いながら、三笠は引っかかりを感じた。 蒼空とはずっと一緒にいたいと思っているし、蒼空だから今も同居しているのだ。 三笠にとっては、蒼空との同居は意味あるものとなっている。 「へぇ……じゃあ何で一緒に住んでんだ?……まぁいい。俺、蒼空が好きなんだわ」  須藤の突然の告白に、三笠は目を見開いた。 「え……」  心臓がトクンと鳴る。なぜか心がソワソワして仕方ない。どうしてこんな気持ちになるのだろう。 三笠は、自分が目の前の男に嫉妬心を抱いていることに気付いた。 『俺が……この男に嫉妬している?蒼空くんのことで?』  三笠はゴクリと唾を飲んだ。 『俺は……蒼空くんのことが本当に好きなのか??』  動揺しながら、三笠は須藤の顔を見詰めた。 「何だよ。驚いたか?ま、そういうことだからさ、蒼空と離れてくれよ。アイツは俺がもらうから」 「蒼空くんが好きだというのは、本当なのか?」 「あぁ、そうだよ」  須藤の目を見ても、なかなか真意は掴めなかった。この男は、本当に蒼空が好きで三笠と離れさせたいだけなのだろうか。 「彼の気持ちはどうなんだ?彼がどう思ってるのかが一番大事だろ?蒼空くんも同じ気持ちなら、分からないでもない」 「俺がアイツを落としてみせるよ。だから、アンタにいられちゃ困るんだよな。てかさ、アンタ、アイツを好きか?」 「それは……」  思わず、「違う」と即答ができなかった。三笠が言い淀んでいると、須藤が口を開いた。 「まぁ、とにかく。蒼空とは離れてくれ。もし離れなかったら、どうなるかわかんねーから」  そう言い放つと須藤は席を立ち、「そんじゃ」と言って去っていった。三笠はただただ呆然と、去っていく背中を見送るしかなかった。色々な情報が入ってきて、処理が上手くできなかったのだ。 『俺が……蒼空くんを好き?あの男も彼を好きだと?』  三笠はそのことが頭を巡り、しばらくその場から動けなかった。

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