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第21話

 須藤への不穏な思いと蒼空への秘めた思いに悶々としていたある日、蒼空が珍しく酔って帰ってきた。時刻は既に日を跨いでいた。 「遅かったね。かなり飲んだ?」  三笠がそう聞くと、玄関に入った蒼空は足元がふらつき三笠にもたれかかった。 「大丈夫?」 「らいじょうぶ……れす……」  蒼空は三笠から身を離したが、呂律は回っていない。どうやら大丈夫ではなさそうだ。三笠は酔ってふらふらになっている男をベッドまで連れていくことにする。 「さぁ、ベッドに行こう」  蒼空を支えながらリードしようとしたその時、彼がよろめいた。 「あ……」  二人の目が合うと、蒼空が潤んだ目で三笠を見つめてくるので、三笠はドキリとした。 「みかさ、さ、ん……」  蒼空が顔を近づけて唇を合わせてきた。触れるだけの、僅かな時間の口付けだった。 驚き目を丸くする三笠に、蒼空はふんわりと微笑みかけてくる。  すると次の瞬間、蒼空は三笠にどさりともたれかかり寝息を立て始めた。 「蒼空くん?」  呼びかけても反応はない。 ドキドキする心は置いておいて、三笠は蒼空を今度こそ部屋に運ぶことにした。 蒼空は横抱きにできるほど軽かった。華奢で儚げに見える彼を、自分が守っていけたらどんなにいいだろうと思う。  最も、蒼空も男だし守られるのは嫌かもしれないが。  蒼空を彼の部屋に運び、ベッドに寝かせる。  静かに眠る蒼空の額に、三笠はそっと秘密の口付けを落とした。 『これくらい、許してくれるかな……』  その夜、三笠はなかなか寝られなかった。  次の日はお互いに休みで、どちらもゆっくりと起きた。 先に起きた三笠が朝食の用意をしていると、蒼空がキッチンに現れた。 「おはようございます」  目玉焼きを焼いていた三笠は、声をかけられる。 「あぁ、おはよう。具合は大丈夫?」  蒼空は夕べ相当に酔って帰ってきたため、二日酔いを心配しているのだ。 「はい。何とか大丈夫です。胸はムカムカしますけど」  そう言うと、蒼空は自分の胸を摩った。 「そっか。じゃあ用意するから待っててね」 「すみません、朝ごはんの用意させてしまって……」  その言葉に、三笠は笑顔を向けた。 「いや、いいんだよ。もうすぐできるからさ」 「ありがとうございます」  蒼空が食卓で頭を下げた。  そういえば、”アレ”があった翌朝なのに蒼空に気まずさは感じられない。きっと、昨夜のことを覚えていないのだろう。残念なような、ホッとしたような気がする。あのキスのことは、秘めておくことにしようと三笠は考えた。  五分ほど経ち、朝食が出来上がった。 「取り敢えず、おかゆ作ってみたんだ。二日酔いに良いかなって思ってさ」 「ホント、すみません」  ぐったりとしている蒼空が呟いた。 「俺も胃を休めるためにおかゆ食べるよ。さ、食べよう」 「はい」  蒼空は、三笠の用意したおかゆやスープ、フルーツを美味しいと食べでくれた。 「ごちそう様でした」  蒼空の気分も少しは落ち着いたようだ。 「ちょっと待ってて。今コーヒー淹れてくるね」  蒼空が頷くのを確認すると、三笠は席を立つ。 「お待たせ」  コーヒーカップを二つテーブルに置き、三笠はまた席に座った。 「昨夜は、誰と飲んでたの?」  幾ら同居しているとはいえ、こんなことを聞いて良いのかは分からない。  しかし、あの男とだったらと思うと、聞かずにはいられなかった。  やや驚いたようだが、すぐに普段の表情に戻った。 「昨夜は、バイト先の人と飲んだんですけど、調子乗って少し飲みすぎちゃいました」  たぶん、あの須藤のことだろうと、三笠のカンが働く。 「もしかして、前にカフェに一緒にいた彼?」  三笠の胸がざわついて仕方ない。

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