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第26話
須藤の取り調べは、三笠が担当することになった。
須藤は取り調べ室の椅子に浅く腰掛け、仰反るようにして三笠と対峙する。
「それで、なぜこんなことをしたんだ?」
三笠は刑事モードで須藤の目を見据えた。
「あ?言うわけねぇよなぁそんなの」
「そうはいかないんだよ。誰かに支持されたんだろ?お前ひとりで計画したとは思えないからな」
「誰にも支持なんてされてねぇ……」
そう言ったきり、須藤は口をつぐんでしまった。やはり、黒幕がいるらしい。
須藤は一向に話そうとせず、三十分が経った。
「おい、いい加減に吐けよ。吐かないと、お前にもいいことないぞ。いつまでもここにいる気なのか?」
「 ……」
須藤はまただんまりを決め込んでしまう。
さらに三十分後、業を煮やした三笠は、バンと強く机を叩いた。
「お前なぁ。俺も待ってられないんだよ。早く吐け!」
思わず感情的になった。それは、碧空が危険な目に遇ったことが理由だ。
「だから、うっせーって」
須藤は今度、机に突っ伏してしまった。
「なぁ、龍星会の須藤くん?」
そう呼びかけると、須藤はガバっと身を起こした。その顔には、驚愕したような焦りの色が浮かんでいる。
「何でそれを……」
須藤の目の色が変わった。
「このくらい、調べることはできるんだよ」
実は三笠は、事前に須藤の素性を調べさせていた。
個人的な感情でどんな男なのか気になったのも事実だ。
刑事のカンというヤツで、須藤に何か怪しさを感じたからだった。
そして、須藤の素性が判明した矢先に事件が起きたのだ。
「龍星会の鉄砲玉やってるんだって?バイトは、蒼空くんに近付くためだったんだろ?」
そう告げると、須藤は視線を外して舌打ちをした。
「チッ、バレたか」
「観念しろよ。でもな、何で蒼空くんに近付いたのかが分からないんだよな」
「じゃあ、そのままでいいだろ。理由なんて」
「そういうわけにはいかないんだよ!全容を解明しなきゃいけないんだ。背後にいるヤツをしゃべってもらわないとな」
須藤はケッとまた舌打ちしてそっぽを向いた。
三笠は堪りかね、須藤の胸ぐらを掴んだ。
「誰に言われたんだ?黒幕は誰なんだ?」
「そんなのいねぇって」
空いている方の手の平で、須藤の顔を叩いた。
「いってぇ!」
「だから、ちゃっちゃと言えって!これ以上待たせるな!」
三笠の苛立ちが募る。
「誰かを庇ってるんだろう?それは誰だ。俺はそう気が長い方じゃないんだよ」
「……山之内さんだよ」
須藤は、ついに黒幕の正体を明かした。
「え?山之内って……」
山之内という名字は聞いたことがあるが、一瞬誰のことかピンとこなかった。
「蒼空の父親」
須藤がボソリと言った言葉に、三笠は愕然とした。
「何だって?今、拘置所にいるはずだが………」
「あぁ、そうだよ」
須藤によると、山之内は暴力団・龍星会の組員だったという。
そのことは、蒼空や殺害された母親には隠していたのだ。
普段山之内が働いていた会社は、実は龍星会が母体になっている会社だった。いわゆる、シノギというヤツだ。妻への殺人容疑で拘置所に入った後に、須藤は面会に行ったのだという。
山之内は、邪魔な存在である義理の息子・蒼空と自身を逮捕した三笠を始末しようと考えていた。
そして、面会に訪れた須藤に蒼空や三笠を消してくれと頼んだのだった。
「お前がわざわざ面会に行くってことは……まさか……」
悪い予感は当たるものだ。
「そうだよ。山之内さんは龍星会の幹部で、普段は系列の会社でシノギをしてる」
三笠はさらに愕然として、嫌な汗が出てくるのを感じた。
須藤は山之内を慕っており、山之内も須藤を可愛がっているようだ。
「そうだったのかよ……」
三笠は動揺が止まらない。蒼空の義父が、暴力団の幹部だったとは。蒼空は義父に何かあるらしいことは気付いていた模様だが、暴力団員だとは知らなかったのだろう。
以前、三笠が彼を取り調べた時は影がある感じはあったが、三笠もまさか、山之内が暴力団員だとは気付かなかった。調べの甘さを痛感し、自分たちの落ち度だと思った。
龍星会のことは、署でも特別に警戒していた。
これまで警察沙汰になる事件を起こしたことはなかったが、武闘派の構成員が揃っている。
三笠も龍星会の動向は注視していたが、山之内の会社が系列だということは隠していたようだ。
「で?こんなことをした理由は何なんだ。何が目的で、山之内はお前に命じたんだ?」
「それは、蒼空とアンタを潰したいって言ってたな。俺は詳しいことは知らねぇよ」
そう言うと、須藤はそっぽを向いた。
『蒼空くんと俺を潰す……?山之内のことを話した俺に蒼空くんと、捕まえた俺への恨みか?』
そう勘づいた三笠だったが、これ以上は須藤から聞き出すことができなかった。
「あぁ、最後に、どうやって蒼空くんをさらったんだ?」
「そりゃ簡単だ。俺が話あるから出て来いって誘い出したんだよ」
「許せないな…」
三笠は憤りに燃えた。
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