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第33話
春になり、蒼空はコンビニでのバイトを辞めて部品製造の会社に就職をした。なかなか仕事は決まらなかったのだが、蒼空が手先が器用だったことから採用されたのだ。
しかし就職が決まって直ぐの頃に、蒼空が焦って三笠に告げた。
「実は、研修があるっていうんですよ……」
「研修?まぁ、まぁ、モノをつくるんだろうし大事だろうね」
「それはそうなんですけど……それが、場所、長野なんです」
「え?な、長野?」
意表を突かれ。三笠は目を丸くした。長野という地名が出てくるとは、予想もしなかったから。
「はい。長野で三か月間……」
「3か月も??」
三笠は大いに驚き、腰を抜かしそうになった。
「変なんですけどね、長野にある支社で技術だけじゃなくて、色々研修をするみたいです。それで、三カ月も……」
蒼空も参っているようだ。
「そうなんだ……でも、決まりなら仕方ないよね」
三笠は気遣ったつもりだったが、蒼空は表情を曇らせた。
「せっかく気持ちが通じたのに……俺と三カ月も離れるの、寂しくないんですか?」
蒼空が恨めしげに睨む。
「いや、そんなことはないよ……」
「俺は、三笠さんと離れたくありません」
珍しく不満を漏らす蒼空。
「三笠さんは違うんですかね」
今までにないくらい、蒼空は悲しげに見つめてきた。
「まさか。俺だって戸惑ってるし寂しいよ」
三笠はふわりと蒼空を抱き締めた。
「寂しいけど、三か月離れたくらいで心までは離れないって、信じてるから」
「で、でも……付き合いだしたばっかりなのに……」
「そうだね。君は、俺を信じられない?」
「そ、そんなことないです。信じてるから、あなたと一緒にいるんです」
「それなら問題ないよ。俺だって君と離れたくないけど、会いに行くからさ」
蒼空を抱き締める腕に力を込めた。
「え、本当ですか?」
「うん。会えない距離じゃないだろ?新幹線でも直ぐに行けるし」
「俺も、休みに三笠さんのところに戻りますね」
「たまに会うと、会えた時の喜びも大きいかもな」
蒼空はコクリと頷いた。
「頑張って。蒼空くん」
三笠はありったけの思いを込めて、蒼空の額にキスをした。
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