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第35話
「君さ、大丈夫なのか?」
二人でやってきた休憩室で、三笠は佐久間に尋ねた。テーブルに着きコーヒーを飲みながら佐久間に尋ねた。
「えぇ、まぁ……」
佐久間は笑顔を見せたが、全く大丈夫そうには見えない。
「でも……そうは見えないよ?」
コーヒーをすすりながら、三笠は思案した。
「もしキツいなら、今回の捜査から降りるか?辛い真実を知るかもしれないし、しんどいかもしれないぞ」
三笠の提案に、佐久間は逡巡した後にきっぱりと応えた。
「いいえ、続けさせて欲しいです。理恵が、なぜこんなことになったのか、どうしても突き止めたいです。犯人を、絶対に捕まえたいと思ってます」
「本当に、大丈夫?」
今度は、佐久間の目には怒りに似た闘志が見えた。
「はい。悲しいのはもちろんですけれど、理恵の敵を討ちたいんです」
佐久間の言葉を聞き、三笠は彼女の意向を尊重しようと考えた。
「分かったよ。でも、しんどくなったら無理するなよ?」
「はい、ありがとうございます。気遣ってくださって、優しいんですね、先輩」
佐久間は僅かに頬を赤らめた。
「いや、そんなことはないよ。ただ、友達が亡くなったのを目にしたら、辛いだろうと思って」
本当はやはり辛いのだと佐久間は言う。しかし、理恵の無念を思う気持ちが佐久間を動かしていた。
重要参考人として、理恵の彼氏だという浅井功太が取り調べを受けた。理恵が亡くなって一週間が経った頃だ。
「結城さんとは、交際してるんだよね?」
「そうだよ。一ヶ月前からかな」
斜に構えた様子で浅井が答える。
「一緒に住んでるんだって?」
「あぁ。付き合いだして直ぐからかな。俺から提案したんだよ」
ここまで、浅井は素直に話してくれた。浅井はフリーターで、バイト生活をしているらしい。
「事件の日、結城さんに何があったか知ってることない?」
「さぁな。別に何もないよ」
「そうか……ちょっとしたことでもいいんだけど」
「だから何もねぇって」
面倒くさそうに浅井は舌打ちをした。
「結城さんが亡くなった日の午前中、どこにいた?」
「何だよ。アリバイってやつ?俺のこと疑ってんのかよ。まぁ、呼ばれた時からそうだと思ったよ」
「いや、取り敢えず聞いただけだから。何してた?」
「その時間は……出掛けてたよ。用があって渋谷まで行ってた」
「それ、誰か証明してくれる人いる?」
そう三笠が聞くと、浅井が少し狼狽えたのが分かった。その様子に、三笠は目を光らせた。
「いねぇよ。一人で行ったし誰とも会ってねぇからな。あ、そうだ。これ買ったんだよ、これ」
思い出したように、浅井はズボンのポケットからシガーライターを取りだし三笠に見せる。
「その時に買ったって証明できるのか?レシートとか……」
「ねぇよ。俺はレシート店に置いてくる主義だからな」
「それじゃ証明にならないな。まぁいいや。今回はここまでにするよ。また何か聞きたいことができたら来てもらうかもしれないが、その時は協力を頼むよ」
「あ?またあるのかよ。面倒くせぇな」
心底怠そうに、浅井は吐き捨てて帰っていった。
三笠は浅井を怪しいと感じた。恋人が死んだというのに悲壮感がまるでない。もの凄く違和感があった。普通なら、あんな調子ではいられないだろうに……。
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