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第36話

 さらに一週間後、浅井は逮捕された。  結城の友人から、浅井が結城のヒモになっていると情報を掴んだのだ。 結城の実家が裕福であり、結城家の金を当てにしていたという。  そして、浅井は定職には就かずバイトを一つやっているだけだという話も入手した。 「何で理恵を……理恵を返して!!」  浅井を前に、佐久間は泣き叫んだ。 「おい、落ち着け」  浅井の取り調べに立ち会っていた三笠が諭す。 「すみません……でも私、やっぱり許せません」  佐久間は耐えるように歯噛みした。 「何で結城さんを殺したんだ?もう白状しろよ」 「アイツが、俺の浮気を疑ったんだよ。それで口論になったんだ」 「そんなことで、人の命を奪ったのか」 「口論になって、ちょっと頭来てナイフを持ち出したんだよ。そしたら、揉み合ってるうちに刺しちまったんだ。本気で殺そうとしたんじゃねぇ」 「でも、全然悲壮感とかないわよね」  怒りを抑えながら佐久間が尋ねた。 「俺の考えてることなんて分からねぇだろ?」 「……本当に理恵を愛してたの?」 「そんなことは、俺の心の中にあればいいんだよ」  謎な浅井の返答に、三笠がツッコんだ。 「何だよ、それは」 「愛してたよ、アイツを。じゃなかったら、一緒にいないだろ」  浅井の目が寂し気に揺れた。浅井の表情がガラリと変わった。 「これから、生涯かけて償うよ」  その後、浅井は結城の金をあてにしていたわけではなかったことが分かった。誰かが悪意を持ってデマを流したのだ。彼は浮気をしていたわけではなかったことが判明した。スポーツをやっていて光っていたという浅井を、妬む者がデマを広めた可能性があるのだ。 そして浅井は確かにバイト生活をしていたが、就職先を探していた活動中だったという。 面接も受けており、結果待ちの状態だったのだ。  愛する恋人を殺めてしまった浅井の気持ちを思うと、三笠も佐久間も苦しくなった。

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